「中流」がリード トライアスロン熱

 

駐中国エストニア大使館に招待された「チーム3」のメンバーら。彼らは今年、同国の首都タリンでの大会に参加する(写真提供「チーム3」)

普段の寇小龍さん(43)は、ごくありふれた会社員だ。身長170ほどで中肉。特別たくましくもないし、日焼けもしていない。ただ、誰もが驚く趣味がある――トライアスロンだ。しかもオリンピック種目のトライアスロン(スイム1.5、バイク40、ラン10)ではなく、俗に「アイアンマン」と呼ばれるスーパー長距離のトライアスロンだ。

「アイアンマン」は、まずスイム3.8、続いてバイク180、最後はランで42.195のフルマラソンをこなす。競技距離はトライアスロンの4倍にもなる。普通の人から見れば、まるでスーパーマンのようだ。だが寇さんは言う。「心臓血管などの病気がなければ、誰でも23年練習すれば皆『アイアンマン』を完走できます。大切なのはやり続けること」

自らを律するトライアスロン

トライアスロンを始めたきっかけは、ほんの偶然だった。2011年に人間ドックを受けた寇さんは、高血圧で高脂血症と診断される。これ以上太ることはできない。何か運動を始めなければ。そこで寇さんは、会社との往復十数を毎日、自転車で通って鍛えることにした。

そんなある日、友人と一緒にトライアスロンのレースを見に行った。その頃は選手たちに対し、憧れにも似た気持ちを覚えた。だが、レース参加者の中にも太っている人が多いのを見て、心が動いた。「私でもできるんじゃないか」。早速、当時会員が数人しかいなかった「チーム3」という北京市内のトライアスロンクラブに入会した。

トライアスロンは長時間のバイクとランをこなさなければならないので、選手は普段から自分の限界に挑戦している。しかも長期間、休みなく練習し続けなければならない。たった一人で続けるのは大変なので、近くの仲間と一緒に練習している。現在「チーム3」のメンバーは、毎週火曜日の夜、グラウンドを十数走っている。それ以外に、天気が良いときは自転車で郊外に出掛ける。練習が終われば、一緒にバーベキューを楽しむ。そうして、練習だけでなく仲間と気持ちでもつながっている。

「家族も応援しています。トライアスロンをやっていると生活も自制的になります。今では夜更かしもしません。早起きしてランニングをしなければならない。夜も妻に飲みに行くとは言わず、走って来ると言うようになりました。家族にも健康面で良い影響があると思います」。寇さんはそう淡々と話す。

 

毎週火曜日の夜、「チーム3」のメンバーと一緒にグラウンドを走る寇小龍さん(青いウエア)(写真馮進/人民中国)

 

欧米では人気のスポーツ

実は最近、「チーム3」クラブで大きな出来事があった。メンバーが駐中国エストニア大使館から招待され、大使から歓待されたのだ。理由は、今年夏にエストニアの首都タリンで開かれるIRONMANトライアスロン大会に、クラブから28人が応募したことだった。これには主催者が驚いた。昨年、中国人の参加者は1人だけだった。ところが今年は「アイアンマン」部門に、フィンランドとロシアに次ぐ3番目に多い応募が中国からあったからだ。

米国の選手が聞いてきた。「中国の万達(WANDA、複合企業)グループが、IRONMANブランドを買収したことと関係があるのかな?」。「チーム3」のメンバーが答える。「関係ないよ。今回応募したのは、タリンの市内コースは平坦な部分が多く大会の雰囲気も良いからさ」

寇さんが説明する。「タリンのレースに昨年参加したクラブの仲間の話を聞いて、とても興味を持ったんです。一番大きな印象は、タリンと他の大会は雰囲気がまったく違うということ。他の大会ではトップと上位の数人しか注目されないけど、タリンでは17時間に及ぶレースの最後の一人までゴールでライトアップしてくれます。そして、観衆と運営の人たちがスティックライトを振って応援し、ゴールすると花火で選手を祝福してくれるんです。これはトライアスロン競技の精神をよく表していると思います。つまり、たゆまず、ひたすら頑張り続ける――その姿こそが素晴らしいのです」

中国ではまだ「アイアンマン」レースが開かれたことはない。「チーム3」のメンバーは毎年、家族連れで海外のレースに参加している。欧米では、トライアスロンは多くの人から注目され、アスリートとしても尊敬されている。中でも「アイアンマン」が行われるIRONMAN大会は有名で、「IRONMAN」のロゴTシャツで街を走ると、羨望のまなざしを受けるという。

寇さんは感慨深げに続ける。「欧米ではトライアスロンというスポーツはすごく普及しています。レベルも高い。バイクの区間で、白髪のおばあさんにいつも抜かれます。いつだったか、デンマークのコペンハーゲンの選手から、『チーム3』の会員数はどのくらいかと聞かれたんです。自慢のつもりで『北京最大のトライアスロンのクラブで、400人以上の会員がいる』と答えたのですが、彼が所属しているのはコペンハーゲンの小さなクラブなので、600人しかいないと言われて……。大きなクラブになると1000~2000人にもなるそうです。コペンハーゲンの人口は大したことがないのに。いや、ホントに驚きました」

 

「アイアンマン」レース中、タイムを確認する「チーム3」のメンバー(写真提供「チーム3」)

愛好者は「中年中流」

ここ数年、中国ではマラソンが急速に普及して、都市ではジョギングを始める人たちがどんどん増えている。2011年の北京マラソンでは、参加者の応募開始から6日で定員に達した。14年は応募者が多数のため抽選で参加者が決められ、ハーフマラソン部門の競争率は7倍を超えた。

トライアスロンもマラソンと同じように急速に広がっていくと、寇さんはみている。現在、北京のトライアスロン人口は1000人余り。「アイアンマン」への挑戦者も全国で1000人余りだろう。しかし、もしマラソンの愛好者がかなりのレベルに達したら、おそらくその人は物足りなく感じ、もっと大きな手応えを求めるだろう。そのとき、トライアスロンは格好の選択肢となる。

寇さんはこう分析する。「これは社会の発展段階を示しています。中国の中間層がある程度の規模になった後、こうした競技は必ず発展すると思います。マラソンやトライアスロン、クロスカントリーなどの競技人口の伸張は、中国経済の発展や中間層の増加の投影です。ここ2年ぐらい、バイクやジョギングシューズといった競技グッズの売り上げは幾何級数的に伸びています」

世界でトライアスロン大会などを主催するワールドトライアスロンコーポレーション(WTC)によると、世界でトライアスロンの愛好者は40代前半が最も多く、その後に30代の年齢層が続く。職業別では公務員や企業の管理職など、収入面でも中間層が中心という。こうした人々はある程度の貯蓄があり、資金的にも時間的にもトライアスロンの練習に打ち込める余裕環境があるという。「チーム3」クラブのメンバー構成は、まさにこの統計とぴったり重なる。

寇さんの「アイアンマン」の平均完走タイムは約15時間。トップ選手が8時間を切り、平均タイムが約13時間という中で、アマチュア選手として決して速くはない。しかし、これまで20回以上参加したトライアスロンのレースは全て完走している。今後の目標を聞くと、力むこともなく「自己ベストの更新」と答えた。その表情は、すでに自制的な「アイアンマン」そのものだった。

 

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