新中国の誕生と民間外交

劉徳有

      いまや国際舞台の中心に立って活躍しつつある新中国——中華人民共和国が誕生したのは、70年前の1949101日。

 世界史的にみて、新中国の成立は大事件であったにもかかわらず、冷戦下の当時、日本を含めて西側のメディアの扱いはとても小さなものだった。そこで、思い出したのが、1953年『人民中国』誌創刊の頃から北京で机を並べてともに仕事をしたジャーナリスト出身の菅沼不二男氏が遺稿集『叢中笑』の中で書かれた次の一節だった。

 日本では、(新中国成立)のこの日の夕刊でも、翌日の朝刊でも、大新聞は、この世紀の出来事を全く無視するか、またはベタ記事で一番下の方に小さく報道しただけであった、という。

 これはまことに象徴的である。その頃、日本はまだ「連合軍」の占領下にあり、その主力であるアメリカにとって好ましくない隣国の出来事を大々的に報道できなかったのかも知れない。あるいはまた、日本の「世論」が、この世界史的な意義を持つ世紀の大事件について、はっきりした見解をもち得なかったからかも知れない。

 新中国成立後、中国は厳しい国際環境の中で、あくまでも独自の道を歩み続け、経済的にいまでは世界第二の大国にまで発展した。日本との関係でいえば、アメリカの戦後戦略の影響で、不正常な状態が、1972年の田中首相訪中による中日国交回復まで続いたが、その間、中国は民間外交をもって、「官を促す」という世界にもまれな政策をとり続けて實を挙げたと言ってよかろう。

  その民間外交で思い出したことがある。私の狭い経験であるが、毛主席はじめ周総理や中国の他の指導者たちが、誠意をもって日本との民間外交を推し進めたのを目の当たりにして感銘を受けたこともしばしばであった。私が初めて毛主席の通訳をした1955年のこと。日本から見えた国会議員の代表団と会見した際に言われた言葉が強く印象に残っている。「日本にも一度行って見たいし、ついでに、中国人民の友好的な気持ちを表したい」「われわれはお互いに助け合い、有無相通じ合って平和に仲良く暮らし、文化交流をおし進め、その結果として正常な外交関係を結ばなければならない」この一言で、一度でもいいから日本を訪問したい毛主席の気持ちをひしひしと感じとった。

  若いころ勉学のため日本に滞在した経験のある周総理も日本を訪問したい気持ちがあった。たしか1962年の10月と記憶しているが、周総理が北京でLT貿易交渉のために訪中された高碕達之助氏を招宴した時のこと、高碕氏は周総理に「適当な時期に日本を訪問されませんか」と、さそわれた。周総理は感謝を述べた後、「国交未回復の今は不可能です。しかし、日本をぜひ訪問したいと思っています。法律では仮釈放の規定がありますが、もし総理の私に『仮辞職』が出来れば、日本訪問を実現できるでしょう」と残念そうな顔をされたのを覚えている。新中国成立後、周総理は中日関係正常化を目指して日夜心血を注ぎ、それこそ不眠不休の努力をされ、長期にわたる民間外交を展開して、19729月に国交回復を実現させたばかりか、もっと重要なのは、両国人民の心の中に友好のタネを撒き、それが芽を出し、花開き、鬱蒼と生い茂る大木となって、末永く両国関係のなかで役割を果たしていることであろう。

 ところで、中日関係が新しい時期に入った今日、民間交流はすでにその歴史的使命を終えたと見る向きもあるようだが、そうだとは思わない。むしろ、新しい情勢の下で、人民間の友好活動にいっそう広々とした道が開け、活気づいてきたのではないだろうか。両国間に存在する不安定要因を取り除き、友好を阻害する動きを抑えつつ、人民間の相互理解と信頼を深め、世世代代の友好を実現させるうえでひきつづき大きな役割を発揮できるようになったと思う。中日関係の原点に立ち返り、経済貿易往来はもちろんのこと、文化交流、青少年交流を含む各分野の交流を一層深め、長期にわたる、安定した健全な友好関係を維持することこそ、最重要課題であると思われる。

民間交流を推し進めるうえで、青少年交流はことのほか重要であろう。長い目で見て両国青少年交流こそ、戦略的互恵関係構築の重要な内容のひとつであり、また、国民感情改善の面で果たす重要な役割は、誰もが認めるところである。青少年交流強化によって、両国友好合作の長期、安定、健全な発展をはかるための新生の力の育成と新たな活力の注入にいま迫られている。言い換えれば、中日友好事業と文化交流事業には後継者の育成が今とりわけ必要であり、風雨の試練に耐え抜いた旧き先輩のような友好人士の育成を必要としている。これは、中日友好事業の伝統を受け継ぎ、未来を切り開くために切実に必要なことであろう。

日本の青年に大きな期待を寄せている習近平主席は、今年の6月、大阪のG20に出席する前に、『人民中国』主催の「パンダ杯」全日本中国語作文コンクールに優勝した日本の青年・中島大地君に直筆の署名入りの書簡を送り、次のように述べている。

「中国と日本は一衣帯水の近隣であり、両国友好の基盤は民間にあります。両国人民友好の未来は青年の世代に希望がかかっており、中日両国の青年は交流と相互学習を強め、相互理解を深めて、末永き友好を発展させ、両国関係の更なる麗しい明日のために積極的な貢献をされるよう希望します。また、中日友好事業にいっそう意欲的に参加されることを望んでやみません。」

 

 

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