王浩=文
ミュージカル『人間になりたがった猫』は2017年6月に北京で初演され、大きな反響を呼んだ。日本の劇団四季から上演権を取得し、中国人俳優が演じた同ミュージカルは、中国各地で100回以上の公演を行い、大勢の観客を動員した。作品の輸入に力を尽くしたのは、プロデューサーを務めた四季歓歌(北京)文化芸術社社長の王翔浅さんだった。
王さんとミュージカルとの縁は約20年前にさかのぼる。大学時代、中国文学を専攻した王さんは、卒業後、北京人民芸術劇院に就職した。2年後、演劇をさらに勉強するため日本へ留学。在学中、王さんは東京で劇団四季のミュージカル『マンマ・ミーア!』を観て、その素晴らしいパフォーマンスに心を奪われた。こうして、ミュージカルにほれ込んだのだった。
しばらくして、北京の『中国戯劇』という雑誌から、日本演劇界の芸術家について記事を書いてほしいという依頼が来た。王さんは、迷うことなく劇団四季の創設者である故・浅利慶太氏を取材することにした。「ミュージカルと劇団四季に対する情熱があったため、取材前には、図書館で1週間ほど資料を調べて準備しました。浅利先生は2時間以上話し、その後のスケジュールを何度も延ばしてくれました」。取材中、浅利氏は中国に対する夢を語り、劇団と中国との交流を後押ししてほしいと王さんに伝えた。演劇に関する知識と語学力を高く評価し、その場で彼女を劇団四季の北京駐在員に任命した。こうして王さんは、ミュージカルに全てをささげるようになった。
北京駐在員となった王さんは、浅利氏と北京人民芸術劇院の俳優が合作した新劇『ハムレット』の公演を手掛けた。同劇は中日両国で上演され、中日文化交流を代表する作品となった。また、王さんは何度も中国の芸術団を連れて劇団四季を訪れた。12年、王さんは2年かけて執筆した著書『芸術と経営の奇跡』を出版した。同書には、劇団四季が成功した経験が詳しく記されており、中国のミュージカル界に大きな影響を与えた。
14年、王さんは四季歓歌(北京)文化芸術社を立ち上げ、中国市場に軸足を置き、ミュージカルの創作に取り組み始めた。王さんは語る。「ミュージカルは欧米が発祥で、誕生したときから時代性と商業性を備え、大衆や生活に密着しています。現在、中国は経済成長と文化発展の時期にあり、今の時代に合致しているミュージカルは、必ず大きく発展するでしょう。日本で成功した経験は今の中国でとても大事だと思います」
王さんは劇団四季の代表的なファミリーミュージカルの上演権を取得し、夢を実現し始めた。『人間になりたがった猫』の後には、『魔法をすてたマジョリン』という作品を輸入し、1年足らずで上演回数は100回に上った。現在、3作目の準備に取り掛かっている王さん。「ミュージカルに携わるのはとても楽しく、また、挑戦的な仕事でもあるので、この道を歩み続けていきたいです。ミュージカルを通じて中日文化交流の後押しもしていきたいと思っています」と抱負を語った。

2017年6月、『人間になりたがった猫』が初演された北京の保利劇院であいさつを述べる王さん (写真提供・王翔浅)