元NHKアナウンサー、ジャーナリスト 木村知義
今月28日、29日の2日間にわたって大阪で開かれるG20首脳会議が近づいてきた。今回はG20のメンバー国以外からもスペイン、シンガポール、ベトナムなど8カ国が招かれるほか、国連や世界銀行など9つの国際機関も参加することになっている。
日本が初めて議長国を務めるということで、日本のメディアでの注目度も高くなっているが、それ以上に重要なことは、今回のG20が、「ファーウエイ問題」に象徴されるように、貿易・通商をはじめ中米関係がかつてない厳しい対立のなかでひらかれるということだ。
米国のトランプ政権による一国主義と保護主義が顕著となって、世界はますます不確実性が増し、不安定になっている。いま世界が直面する多くの課題に対して、多国間の協力の枠組みで立ち向かう共通理解と協力の動力を生むことができるのかが、最大の焦点となる。
テーマとなる問題をいくつか挙げてみる。
まず、グローバルインバランス、すなわち経常収支の不均衡の是正がある。これは2国間で解決できる問題ではない。経常収支で大きな赤字を抱える米国がいま試みているような、貿易で中国からの輸入を抑えたからといって、別の国からの輸入に頼るだけで全体の不均衡は是正できない。つまり、モノの貿易だけでなく、サービスや資本の取引も含む経常収支全体を、多国間の相互の利害を調整しながら議論することが不可欠な問題である。さらに、米国内の貯蓄・投資、消費のバランスを見直すという米国自身の構造面の改革と取り組まない限り改善しないというのが経済専門家の常識となっている。
また気候変動への対応についても、2020年以降の温暖化対策の枠組み「パリ協定」に対して、米国だけが離脱の決意を表明していて、「1対19」で意見が対立している。
途上国のインフラ開発でも、中国が120をこえる国々と30におよぶ国際組織と共同で推進する「一帯一路」建設に対して米国などは牽制と対抗の意図を隠していない。
さらに国境を越えた膨大なデジタルデータの流通という世界的な潮流を前に、各国が協力して新たなルール作りに取り組むことが必要な時代となっている。
どれをとっても、多国間の協力と互恵、ウインウインの関係を発展させるなかでしか解決できない難問ばかりである。
振り返ってみると、去年6月、カナダで開催されたG7シャルルボワ・サミット(G7主要国首脳会議)では、いったん発表された合意文書にトランプ大統領が突然反対を表明して世界を驚かせた。それにとどまらず、世界の諸問題をいわゆる先進7か国だけで取り仕切ることに無理があることを露呈してしまった。
その後も、11月にパプアニューギニアでひらかれたアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議では、初めて首脳宣言を出すことができなかった。
続いて12月にアルゼンチンで開かれたG20首脳会議では「保護主義と闘う」というフレーズが、G20において初めて盛り込まれなかった。
つまり米国のひとりよがりな一国主義によって世界の多国間の協力はことごとく揺らいだ一年だったと言える。そして、超大国が一人で取り仕切る世界は終わったということである。国の大小、先を行く国、発展途上の国々など多様な国の協力が、いまこそ大事な時を迎えているのである。
原点に戻って考えてみると、G20の首脳が一堂に会するようになったのは、2008年9月のリーマン・ショックを、共に力を合わせてのりこえるためだだった。まさに「小異を残して大同についた」のがG20首脳会議の始まりだった。
今回のG20におけるテーマ、問題を挙げてみると、いま中国が取り組んでいる「13次5カ年計画」の5つの発展理念①イノベーション(創新)、②協調、③グリーン(緑色)、④開放、⑤共有(共享)と、その理念にもとづく各種の政策と見事に重なってくることに気づく。つまり、中国には、今まさに必要とされている政策課題について、同時進行で取り組んでいる経験と知恵を生かす地平が大きく広がっているのである。
今回のG20は、中米の「貿易戦争」が激しさを増して世界経済の減速、下振れリスクが指摘されるなかで、新興国を含めた世界経済の持続的成長への道筋を確かなものにすることが大きな使命となる会議である。
地球規模で共同発展と繁栄を共に享受する世界を実現するために、さらに言えば、多国間協力の枠組みが揺らいで一歩間違えば機能不全に陥りかねない瀬戸際に立つG20を各国の協力の舞台として活力をもたせるためにも、中国に期待される役割が一層重くなっていると言える。
課題として挙げられている問題はいずれも米国の一国主義、保護主義とぶつかるものばかりで会議の行方は予断を許さないが、中国のリーダーシップとG20各国との協力の輪が力強く発展することを期待したい。
そして、いうまでもないが、G20に合わせて中米首脳会談が実現すれば、その帰趨(ゆくえ)は世界注目の最大の焦点となります。
人民中国インターネット版 2019年6月25日