青華海の湖畔に立つ「永子棋院」は、当地のランドマーク的な風景となっている。筆者が保山空港に着いて飛行機のタラップを降りた時、「永子甲天下」(永昌の碁石は天下一)と空港ビルに大きく書かれた五文字に気付いた。保山に初めて来た人は、まずこの「永子」に興味津々となるだろう。
永子とは、昔は永昌と呼ばれた保山から産出した赤メノウや黄龍玉、ヒスイなどの鉱石を原料とする、伝統的な手作り碁石のことだ。白い碁石は卵白の如く、黒い碁石はカラスの羽の如し。手に取ると温かくしっとりとし、すべすべしてきめ細かく、まるで上質の玉のようで、まさしく「天下一」の名にたがわない。
「中国のマルコポーロ」と言われた明代の旅行家・徐霞客(1587~1641年)はかつて、「碁石は雲南産、中でも永昌が高級」と称えた。永子は、明・清の時代には皇帝への献上品としてその名が知られた。現在、永子を作る技能は雲南省の無形文化財となっており、同棋院には中国囲碁界の大名人・聶衛平氏による「永昌の碁石は天下一」の書が掲げられている。
無形文化財「永子」の継承者である李国偉氏は、保山市で二人だけの全人代(全国人民代表大会)代表の一人だ。このことからも、保山市と雲南省が永子文化の継承をいかに重視しているかが分かる。「永子は文化の貴重な宝です。私たちは技術・技能を伝えるだけでなく、その文化を広めていきたいのです」。弟子を取り棋院を運営する李国偉氏は、永子を含む中国囲碁のため、世界無形文化財遺産の申請に奔走している。また、永子囲碁学校や永子のテーマパークなど、人々の生活と現地の経済発展をつなぐ事業も推し進めている。
李氏が運営する永子棋院は、中日韓世界囲碁名人最強戦や国際囲碁文化フォーラムなど、数多くの国際交流活動を展開している。碁盤の上の小さな永子(碁石)は、今や保山と世界の文化交流を動かすまでに大きくなっている。

青華海の湖畔に立つ永子棋院

永子棋院で開かれた中日韓世界囲碁名人戦(写真提供・李国偉)

永子碁石を作る材料の黄龍玉