騰衝市の中心から西へ約5㌔の田園地帯にある和順古鎮は、中国南方の古代シルクロード上の村で約600年の歴史がある。ここから東南アジアなどに渡り、財をなした華僑たちは、帰国後に豪華な家や祖先を祭る宗祠(廟)を競って建てた。そして、いつからか和順は華僑の古里として知られるようになった。
明清代の雰囲気を残す灰色れんがの建物や石畳の小道。さらに小川や掘割には豊かな水が流れ、周囲の田園一面には黄色い菜の花が咲く――こうした風景から、和順はまた「雲南の小江南」とも呼ばれる。
村全体が広い観光エリアになっており、正面入り口から少し歩くと最初の見所、和順図書館がある。「中国最大の郷村(田舎の)図書館」と呼ばれ、村レベルの図書館とは思えない古今約7万冊の蔵書を誇る。
その前身は1924年に建てられた「閲書報社」。その後、華僑たちによる寄付や献本などを受け、38年に今の建物による図書館が完成した。入り口に掛かる「和順図書館」の額は、北京大学学長も務めた中国の代表的な学者・胡適(1891~1962年)の筆によるものだ。ちなみに、外国人もパスポートを提示すれば、図書カードを作れる。
エリア内には、明清時代の雰囲気を残す商店やレストラン、民家が立ち並ぶ。その一つ、書画用紙の宣紙を製造・販売する店をのぞいた。中には紙すきの道具があり、店主の龍徳茂さん(44)が実演してくれた。和順の宣紙は騰衝の特産の一つで、柔らかく耐久性があることで知られる。
龍さんも宣紙作りで雲南省の無形文化財継承者だが、やはり後継者はまだ見つかっていない。「冬は冷たい水の作業で、指はあかぎれになるし、楽な仕事じゃないよ」と龍さん。頭の痛い後継者不足問題には、「順其自然」(なるようになるさ)とつぶやいた。

温暖な気候を利用した和順古鎮の菜の花畑(写真・劉正凡)

利用者だけでなく観光客も絶えない和順図書館

「冬はきつい仕事だよ」と話す紙すきの無形文化財継承者の龍徳茂さん