「一帯一路」構想+「伙伴関係」習主席がフォーラムで連携言及

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト

 今年5月に北京で開催された「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」国際協力サミットフォーラム(以下、北京フォーラム)は、中国と世界との関係を見る上で、歴史的視点を提供したといえるでしょう。29カ国から元首政府首脳が参加した他、110カ国から政府企業金融メディア関係者学者ら、さらに、61の国際機関から89人の責任者代表を含む総勢1500余人の参加があったと報じられています(5月14日の中国経済網)。

                                  

 習近平国家主席は、2013年9月(一帯)と10月(一路)に自らが提唱した「一帯一路構想(以下、構想)」を積極的に支持し、その建設に参加しているのは、100余カ国地区国際機関としていますが、一国が提唱した壮大な構想に、わずか4年足らずの間にこれほど多くの国地区国際機関が関係するということは、歴史的に見てもなかったことです。「構想」がかくも短期間に世界的支持を得た背景には何があるのでしょうか。習主席は、北京フォーラムの基調講演で、「今日、人類社会は大発展、大変革、大調整の時代に入っている。世界の多極化、経済のグローバル化、社会の情報化、文化の多様化が深く進んでいる……」と明言しています。こうした外部環境の変化に対応すべく構想が提唱され、北京フォーラムで国際的コンセンサスを得たといえるのではないでしょうか。

バンドン会議との共通点

 今をさかのぼること62年の1955年4月、インドネシアのバンドンで、29カ国の参加を得てアジアアフリカ会議(通称、バンドン会議、AA会議ともいう)が開催されました。日本も参加しましたが、このバンドン会議では、中国の周恩来総理が中心人物の1人(注1)であり、「平和十原則」(国連憲章の尊重、植民地主義反対、経済建設の推進、生活水準の向上など)が共同声明として発表され、国際政治の原則として提唱されました。第2次世界大戦が終結し、植民地の独立が相次ぐなど、まさに、新たな国際環境が構築されつつあることを世界に印象付けた会議として歴史にその名が刻まれています(注2)。

 「構想」とバンドン会議には直接的な因果関係はありませんが、主要参加国が偶然にも29カ国であること、中国が大きな役割を演じていること、何より、世界が転換期にさしかかろうとしている時に開催提起されたことなど、両者には共通点が少なくありません。「構想」は歴史に何を刻むことになるのでしょうか。「構想」に世界的支持が集まっているということは、世界の期待の大きさを示しています。「構想」の重点は、「五通」(政策協調インフラの整備ドッキング貿易投資交流の円滑化金融協力資金調達民心の相互疎通の促進=注3)の実現にあるといえるでしょう。北京フォーラム終了後、この「五通」の分野別に、例えば、「一帯一路」基金に1000億元(約1兆7000億円)の追加融資など、北京フォーラムの開催成果(76大プロジェクト、270余件)が発表されました。その成果をみると、北京フォーラムは、「構想」の実現へ向けた具体的な道筋をつけたことが見てとれます。

「構想」を見る4つの視点

 さて、「構想」の行方をみる視点として、次の4点に注視する必要があるでしょう。

都市化の推進インフラ整備など

改革開放の国際化外資企業との連携など

「一帯一路」FTAポスト環太平洋経済連携協定(TPP)

新型国際関係の構築グローバリズムのプラットホーム

 「構想」の基本は、当面、インフラ整備を通じ沿線国の経済発展のための基盤づくりにあると集約できます。この点、中国を世界第2位の経済大国に押し上げ、世界経済の安定と発展に大きく貢献してきた改革開放政策でも、インフラ整備が優先され、都市化建設は今も最優先の国家事業として続いています。また、「一帯一路」沿線20余カ国56カ所に「国際経貿合作区」(当該国企業、中国企業および外資系企業を導入するための拠点)が建設されていますが、改革開放政策で外資導入を目的に設置された「経済特区」の経験が生かされていることが分かります。改革開放政策の経験が生かされつつある「構想」にも、沿線国の都市化などでビジネス機会の創出など、世界経済の発展を支えることが期待されるのではないでしょうか。

日本の役割に期待集まる

 ところで、日本は改革開放政策の初期に円借款の対中供与などで中国経済の発展を大いに後押ししました。現在、日本は「構想」には参加していませんが、北京フォーラムには、代表団を派遣しました。中国はもとより、日本の参加を期待している関係国は少なくなく、また、日本のビジネス界でも「構想」への関心が高まってきています。例えば、中国に進出している日本企業が中国企業と連携して沿線国でインフラ建設を行うなど、今後の進捗に期待したいものです。

 中国と世界との関係をみる視点として、習主席が基調講演で指摘した次の2点が注目されます。まず、「中国は『構想』参加国と協力とウインウインの経済貿易パートナーシップ(伙伴関係)を積極的に発展させ……、FTAネットワークを構築する」としている点です。習主席が対外的に「一帯一路ネットワーク」の構築に言及したのは、今回が初めてです。「構想」の主舞台であるアジア太平洋地域には、まだ実体的な広域経済圏は存在していません。「一帯一路FTA」には、構築の一歩手前で挫折にひんしているTPPに代わる新たな広域経済圏となる可能性が秘められているとみられます。現在、中国が締結している(交渉中を含む)FTAは、25カ国地区国際機関(筆者の見解)です。北京フォーラムで、新たな経済秩序の構築に向け、第一歩がしるされたといっても過言ではないでしょう。その新経済秩序の構築は、これまでにない発想、すなわち、習主席が講演で言及している「伙伴関係」が軸になるのではないでしょうか。

 習主席は、今年1月、スイスの国連事務局を訪問した折、「中国は伙伴関係を国家と地域組織間の交流の指導原則とする。中国は世界90余カ国地区国際機関東南アジア諸国連合(ASEAN)、欧州連合(EU)などと異なる伙伴関係(注4)を構築している」と、伙伴関係の意義と初めてその総数を公表しました。北京フォーラムでも、「『一帯一路』の盛衰は平和か否かの環境による。そのため、われわれは協力とウインウイン関係の構築を核心とする新型国際関係、すなわち、『対話を求め、対立を求めず』の伙伴関係を構築しなければならない」と表明しています。伙伴関係とは、条約や協定でなく元首首脳による共同声明で構築され、双方の信頼関係と立場事情を考慮して構築されるもので、妥協と譲歩による交渉の成果として構築されるFTAとは一線を画しています。まさに、新型国際関係の核心となっている「協力とウインウイン関係」を代弁し、現在、表面化しつつある反グローバリズム、保護主義へのアンチテーゼとの見方もできるでしょう。

 「構想」の推進には、膨大な建設資金の確保、宗教価値観の相違、経済発展水準の格差など課題やリスクが伴っていることは事実です。それを解く鍵が伙伴関係に秘められているといっても過言ではないでしょう。

 

 

1:他に、インドのネルー首相、インドネシアのスカルノ大統領、エジプトのナセル大統領らも出席。

2:バンドン会議は1回だけの開催だったが、2015年には、60年前に29カ国の指導者が歩いた道を、習主席ら関係国首脳が歩く「歴史的ウォーク」という形で再現された。

3:中国語では「政策溝通、設施聯通、貿易暢通、資金融通、民心相通」の五通

4:公開されていないが、筆者の調べによれば16種類

 

 

人民中国インターネット版

 

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850