アスタナ万博で浮き彫り 中国要素と「一帯一路」

 

9月10日、カザフスタンの首都アスタナで開催されていた万博が閉幕しました。アスタナ万博は「未来のエネルギー」をテーマとした認定博覧会(注1)で、中央アジアでは初の万博で、何より、中国要素が大いに発揮された万博だったといえます。カザフスタンは、習近平国家主席が2013年9月7日に提起した「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想(注2)の「一帯」を打ち出した国として知られていますが、その講演が行われたのがアスタナのナザルバエフ大学でした。その当時、「一帯一路」が今日の世界的支持を得ると予測できた人はあまりいなかったのではないでしょうか。

習近平主席はここで第一声

 習主席は、ナザルバエフ大学の重要講演で古来のシルクロードの功績に触れ、「一帯」事業の意義を「5通」(政策溝通、設施通、貿易暢通、資金融通、民心相通)(注3)から説き起こしています。

         

中国館では、鄭和の宝船の模型と陝西省西安発アスタナ万博会場着の高速鉄道の運転シミュレーションが参観者の人気の的となっていました。鄭和の「下西洋(7回の大航海、15世紀初頭)」の「西洋」はアジアからアフリカ東岸に至る、今でいう「一帯一路」の「一路」地域をカバーし、当時として世界最大の通商交易圏を構築したといえるでしょう。また、高速鉄道の建設は、今後、「一帯一路」とりわけ、「一帯」の主要事業となってくると考えられます。今年9月21日から北京-上海間高速鉄道「復興号」が時速350㌔へとスピードアップ走行することが発表されました。西安-アスタナ間を含め、高速鉄道が「一帯」沿線国を走行する日はそう遠くないと思わせてくれるシミュレーションだったようです。中国館では、鄭和の宝船(貿易通)や高速鉄道のシミュレーション(設施通)のほかにも、5通に関連する数々の展示が精彩を放っていました。

大企業2000社余が出展

アスタナ万博は、これまで海外で開催された万博のうち、中国の大型企業(2000社余)と各省・直轄市・自治区からの出展(200件)が最も多かった万博で、それぞれ、関連の経済・貿易、文化・観光イベントに出展していました。

中国にとってカザフスタンは、「一帯一路」の重点国であり、沿線国中最大の投資先国です。中国は「一帯一路」事業推進のため設立したシルクロード基金から20億㌦を拠出し、中国-カザフスタン国際産能協力基金を設立するなど、カザフスタンとは極めて良好な関係にあります。アスタナ万博では、出展を一番乗りで表明したほか、中国館については、会場のどこのパビリオンよりも早く建設工事に着手し、一番初めに竣工・テスト運営を行うなどの力の入れようでした。カザフスタンに限らず、今後、中国企業は、国際産能協力などを通じ、沿線国への投資を加速させていくと考えられます。2020年には、やはり沿線国のアラブ首長国連邦の第2の中心都市であるドバイでアラブ世界初の万博(登録博覧会)が開催されます。ドバイ万博では、どんな中国要素が発揮されるか注目したいものです。

中心的な役割果たすSCO

 中国館の隣は上海協力機構(SCO)館でした。アスタナ万博の開幕式に先だつ68日と9日の両日、アスタナでSCO首脳会議が開催されました。中国にとって、SCOは「一帯一路」推進上の重要なプラットホーム(パートナーシップ・経済圏構築など)と位置づけられています。SCO加盟国(注4)にとって、中国は主要貿易・投資相手国です。SCOアスタナ首脳会議の白眉は、インドとパキスタンが正式加盟国となったことで、「一帯一路」推進に新たな可能性が生まれたことでしょう(今年8月号の本欄参照)。筆者がSCO館を訪問した時には、スマート農業、エコ農業などで知られる中喬大三農実業集団の喬書領会長が、多くのメディアや入場者を前に自社の業績や「一帯一路」への取り組みについて熱弁を振っていました。昨年、中国は、カザフスタンから農産品、とりわけ、小麦をこれまで最高の30万㌧を輸入したほか、アスタナ万博開幕に併せ、今後、冷凍羊肉の輸入を決めるなど通商交易を拡大すると表明しています。会長の熱弁の裏には他の「一帯一路」沿線国やカザフスタンとの通商交易拡大への大きな可能性を読み取った自信があったのではないでしょうか。

 中喬大三農実業集団に限らず、SCO館は中国企業の「一帯一路」ビジネス拡大の機会を提供していたといえます。今年9月、福建省厦門{アモイ}市で「一帯一路」の発展に今後深く関わってくるとされるBRICS首脳会議が開催され、来年6月には、中国でSCO首脳会議が開催されます。「一帯一路」への世界の関心は、今後ますます高まることでしょう。

新設の上海万博博物館紹介

 アスタナ万博での中国要素は、中国館、SCO館に加え、日本館と向き合っていたBIE館を抜きには語れないでしょう。BIE(国際博覧会事務局)とは、万博の開催に責任をもつ国際組織のことです。今年5月、BIEと上海市政府が連携して建設した世界初の万博博物館(歴代の万博の展示品の模型、写真、資料等が展示)が上海でオープンしています。展示やアトラクションを見る限り、BIE館は上海万博博物館の紹介を兼ねていたようです。VRで上海市が鳥瞰できるなど、館内の随所に中国要素が感じられました。中国は、アジア初のBIE議長(故呉建民元駐仏大使)を務めたほか、10年には史上最大の上海万博を成功させており、BIEとの関係が強化されています。そのことをBIE館は能弁に物語っているようでした。万博はソフトパワーの宝庫です。今後、中国はBIE内での発言権を向上させ万博の発展に大きく関わっていくことになるのではないでしょうか。

舞劇『{トキ}朱鷺』の写真を展示

 そんなBIE館で、あるバレー団の団員が舞う展示写真に目が止まりました。そこには、舞劇『朱鷺』とキャプションが付けられていました。この写真を見た時、今年8月下旬から9月上旬にかけて日本で公演される上海歌舞団の舞劇『朱鷺』について、同歌舞団の陳飛華団長兼芸術監督が日本のTVインタビューに応えた次の言葉が思い起こされました。

10年の上海万博の日本館で朱鷺をテーマにした展示を見ました。その時、絶滅に瀕したトキが、中国と日本、両国の努力により再び空を飛ぶ日が来たという事実を知り、深く心を動かされました。そして、トキの精霊と人間、時代に翻弄される悲しい愛の物語という構想が浮かんだのです」。筆者は万博がとりもつ日中友好協力の大きな一コマが象徴されていると感じました。  

 今年9月29日は、日中国交正常化45周年に当たります。トキ復活のように日中両国の努力と協力により可能となる多くのことは、ほかにも少なくないはずです。「一帯一路」での日中協力もその大きな一例といえるのではないでしょうか。

 

1 万博には総合的なテーマで大規模開催の登録博覧会(5年に1回)と専門的なテーマを扱う認定博覧会がある。10年の上海万博や25年開催に立候補している大阪万博は登録博。

2 正式名は「21世紀海上シルクロード」。1310月、習主席がインドネシア議会でのスピーチで提起。中国語は「倡議」で、構想、戦略、建設、イニシアチブなどと訳される。

3 政策調整、インフラ整備、垣根なき通商交易、貨幣流通、人的・文化的交流の強化。

4  01年設立、正式加盟国は中国、ロシア、カザフスタン、インドなど8カ国。

 

 

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