「人類運命共同体」を主題に 「ダボス」習主席が昨年提起

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト・江原規由

 毎年1月、スイス山麓のリゾートタウンのダボスで、国家首脳を含む国際的に著名な政財学界人らが集い、世界の諸問題を討議する世界経済フォーラム(通称、ダボス会議)が開催されます。昨年、このダボス会議に初参加した習近平国家主席は、「時代の責任を共に担い、世界の発展を共に推進しよう」をテーマに基調講演を行い、その翌日には、国連ジュネーブ事務局で、「人類運命共同体を共に構築しよう」をテーマに講演しました。そのいずれも、人類運命共同体の構築の意義に言及しましたが、わずか1年後の今日、その理念は国際的コンセンサスを得た感があります。例えば、国連の関係文書や決議に複数回盛り込まれたほか、今年のダボス会議のメーンテーマ「分化した世界で運命共同体を構築する」(注1)にも受け継がれていることなどからも明らかです。ダボス会議創設者のクラウスシュワブ氏は、「習国家主席の昨年の基調講演には歴史的意義がある。その時提起された『人類運命共同体を共に打ち立てよう』との主張は、今年の『ダボス会議』のメーンテーマとなっており、今後も、その理念が受け継がれていくことを期待したい」と語っています(新華網 1月26日)。

 

壮大なロマンをイメージ

 人類運命共同体の構築とは実に壮大なロマンとのイメージが湧いてきます。しかしながら、昨年のダボス会議での基調講演で習国家主席が言及した「人類はすでに、あなたの中に私がいて、私の中にあなたがいる運命共同体を形成している」(注2)との視点から見れば、実に「現実かつ身近な世界の出来事」とのイメージが浮かびます。「私とあなた」は「自国と他国」に置き換えることも可能でしょう。

 今日、こうした壮大な理念やプランを世界に提起しコンセンサスを得られる国は、中国をおいてほかにはないのではないでしょうか。現在、中国は世界経済の成長率に対する寄与率で世界トップの30%余りを占めているなど、多くの点で世界に多大な貢献をしており、今後、人類運命共同体の理念に同調し、その構築に参加する国はさらに増えてくると考えられます。特に、中国が国際社会において、その利益を代弁するとしている発展途上国や、すでに100カ国以上が支持参加する「一帯一路(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)」構想の沿線国は人類運命共同体の構築で大きな役割を演じるのではないでしょうか。

 

「一帯一路」構想との共通点

 さて、2013年に習主席が提起し、構想から実務の段階に入ったとされる「一帯一路」構想も壮大な世紀のプランといえますが、両者には共通点が多々認められます。例えば、人類運命共同体の目指すところは「共贏共享(ウインウイン共同享受)」(注3)ですが、この点、「一帯一路」も共有しています。さらに、人類運命共同体の構築では、伙伴関係(パートナーシップ)、平和環境、経済発展、文明交流、環境配慮の「五つの要件」(注4)が強調されていますが、「一帯一路」でも、「政策溝通、設施聨通、貿易暢通 、資金融通、民心相通(政策上の意思疎通、インフラの相互連結、貿易の円滑化、資金の調達、民心の相互疎通)」の「5通」が事業の柱となっており、内容的に「五つの要件」に重なるところが少なくありません。「一帯一路」は、いわば、人類運命共同体の「先行区」あるいは「試験区」といっても過言ではないでしょう。

 

「中国の知恵」と「中国方式」

 昨年来、人類運命共同体の理念が、国連の決議に盛り込まれるなど国際社会に浸透してきた背景には、総じて、現下のグローバルガバナンスを公正かつ合理的な方向に改革していこうとする中国の姿勢が反映されていると考えられます。昨年10月に開催された中国共産党第19回全国代表大会(党大会、19大)の政治活動報告で、習総書記(国家主席)は人類運命共同体の構築について3カ所で言及していますが、その最初のところで、「『一帯一路』の実施、アジアインフラ投資銀行(AIIB)創設、主要20カ国地域(G20)首脳会議杭州会議 、新興5カ国(BRICS)廈門(アモイ)会議などの機会に、人類運命共同体の構築を提起し、グローバルガバナンス体系変革を促進した」としています。

 

20174月、ケニヤのモンバサで中国企業が受注したケニヤ独立以来初の鉄道を走る列車を見守る住民(新華社) 

 これをどう深読みするかについて、楊潔篪国務委員(前外相)の言葉(昨年1119日の『人民日報』掲載文「人類運命共同体の構築を推進する」)を借りてみましょう。楊国務委員はまず、「人類運命共同体の構築は、当代の中国の世界に対する重要思想理論貢献である」と前置きし、「世界は多極化し、経済はグローバル化し、社会は情報化し、文化は多様化しており、新興市場と広大な途上国のプレゼンスが増してきている。国際構図は西側が握っているが、西側の価値観に基づく国際関係は、新たな時代の潮流に適応しきれていない。国際社会は新たなグローバルガバナンス理念を必要としている。新たな公正で合理的な国際体系秩序を構築し、人類に素晴らしい発展ビジョンを切り開く」と続け、後段で「人類運命共同体の構築はグローバルガバナンスに貢献するための『中国の知恵』であり『中国方式』である」としています。

 国際社会は、人類運命共同体の理念に歴史的な新鮮さを感じ、その構築に期待を寄せているといえるのではないでしょうか。

 

伙伴関係が重要な要素に

 人類運命共同体の構築はそう簡単ではないでしょう。しかしながら、中国はその構築に向けた独自のプロセスを用意しているとみられます。すなわち、人類運命共同体構築の「五つの要件」のうちの一つである伙伴関係(注5)の構築がそれです。この伙伴関係につき、習国家主席は、昨年1月に訪問した国連ジュネーブ事務局での講演で、「中国は、伙伴関係を国家間の交流の指導原則にする。すでに、90余りの国地域組織と異なった形式の伙伴関係を構築しており、世界にあまねく広がる『朋友圏』を構築する」としています。ここに、中国が提起する人類運命共同体の本質があるとみられます。伙伴関係を前提に「朋友圏」を拡大し、人類運命共同体を構築する。そんなプロセスが考えられているのではないでしょうか。伙伴関係については、楊国務委員の文章にも人類運命共同体構築の要件として何度も言及されています。いつの時代も、地球には、歴史、民族、宗教、政治体制、経済発展段階、価値観、利害の異なるさまざまな国家が存在し、多様な人々が住み、多種な課題に面しています。伙伴関係構築の核心は、欧米流ゼロサム関係でなく共贏共享、すなわち、「共に」を重視する「三共」精神にあるといえます。まさに、「人類はすでに、あなたの中に私がいて、私の中にあなたがいる運命共同体を形成している」ということです。さまざまな国家、多様な人々、多種な課題を持つ地球に、人類運命共同体の構築が大きな福音となるのではないでしょうか。

 3月に開かれる第13期全国人民代表大会(全人代)で、人類運命共同体の構築に向け、どんな「中国の知恵」と「中国方式」が世界に発信されるのか大いに注目したいものです。

 

 

注1:原文は「在分化的世界中打造共同命運」

注2:原文は「人類已経成為你中有我、我中有你的命運共同体」

注3:共商、共建、共享(共に話し合い、共につくり、共に分かち合う)の「三共」の理念に同じ。

注4:昨年1月、スイスのジュネーブ国連事務局での習国家主席が行った演説の中で言及。

注5:条約や協定でなく元首の共同声明をもって構築され、当事国の事情がより考慮されるなどの特徴がある。

 

 

 

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