静かな漁村

 

 中廟寺から南を眺めると、巣湖の湖心にある緑豊かな楕円形の小島――姥山島が見える。島に行くには船に乗るしかない。中廟寺を出発し、約30分で到着した。

 船着き場に下り、島の最高地点を目指す。10分ほど歩くと漁村に着いた。石段を下りると、石畳の両側に、白い壁と灰色れんがの民家が整然と並んでおり、その中には田舎料理のレストランや民宿もある。各民家の門前には、ナンテンの枯れ枝が1束ぶら下がっている。中国の伝統信仰である「風水学(古代、主に立地条件の良し悪しを判断する際に用いられた。中国人がよく口にする「風水宝地」は、風水学の原理にかなった縁起の良い場所のこと)」で、ナンテンには、邪気をはらう効果があるためだ。門前には果樹や野菜が植えられ、至る所で漁網編みに打ち込む村民の姿を見掛ける。菜園の上には、4本の細い糸でつるされたざるがあり、その上では塩漬けの「巣湖三鮮」が天日干しされている。

 

巣湖で捕ったばかりの「白魚」(コイ科に属する中国固有種)を村へ運ぶ姥山島の村民たち(写真提供・安徽省巣湖市党委員会対外宣伝弁公室)

 

門の前にぶら下げられたナンテンの枯れ枝。古びたれんがと割れ目のある壁が、漁村の長い歴史を物語っている

 

 漁村には、約50戸、200人余りが住んでおり、そのほとんどが漁師だ。巣湖の観光業発展に伴い、夏・秋には魚を捕り、禁漁期の春・冬には民宿を経営するというふうに、村民の仕事の選択肢は増えている。離島では、外界との交流が少ない分、伝統的な民間信仰や生活習慣がよく保たれている。漁村の南西部に住む劉開根さんは言う。「ここには多くの風習があります。例えば、ご飯を盛ることを『盛飯』とは言いません。なぜなら、巣湖の方言で『盛飯』と『沈翻』(転覆する)は発音が似ているため、そう言ってしまうと漁民のタブーを犯すことになるからです」