芸達者な茶館経営者

 島の最高地点へ向かう途中、竹製の椅子やテーブルが並ぶ茶館を通り掛かった。経営者は巣湖地域で活動する音楽家の范仁義さん(66)。彼はフルートや琵琶など、いくつもの楽器を演奏できるが、中でも一番得意なのは二胡だ。

 「学校の文芸宣伝隊(1940年代に現れた、演劇などを行うアマチュアの芸術団体。70年代には、全国各地の軍隊や学校、工場などに所属し活躍していた)に選ばれたことが、音楽を学ぶきっかけでした。音楽に触れる機会がどんどん増え、そのうちに独学で二胡の勉強を始めました」。范さんは二胡の弦を調節しながら、過去を振り返る。30年余りの間に、学校の音楽教師や地元の「農夫芸術団団長」を務めたり、実業界に飛び込んで、写真館を経営したりと豊富な仕事経験を積んだ。だが、常に故郷を思い、伝統芸能を愛する范さんは、最終的には島に戻って茶館を営むことを選んだ。「仕事は毎日大変ですよ!買い出しのために、船で中廟寺の近くまで行かなきゃならない。茶葉やジュース、ヒマワリの種などを買って、天びん棒で担いで持ってくるんです」と彼は感慨深げに話した。

 話しているうちに、店員が「姥山野茶」を持ってきた。「姥山野茶」は島で収穫される茶だが、生産量が限られているため高価だ。

「普段は、黄山、瓜片、猿魁など、安徽省の他の茶葉をお勧めします。その方が安い割においしいからです」。来店客が茶を飲みながら歌を聞きたい気分になれば、范さんは楽器を持ち出し、巣湖地域の伝統的な歌や「黄梅劇」などの地方劇の歌を生で披露する。来店客との交流は、范さんに達成感を与えてくれる。

 ずっと巣湖周辺で暮らしてきた范さんは、地域の発展と変化を見守ってきた。子どもの教育を考え、家族と共に中廟寺付近に引っ越したこともあった。「当時は、地域の開発計画がまだなかったし、町の公共施設やサービスも整っていませんでした。学校から家へ帰るのも、姥山島に帰るのも、とても不便でした。今とは全然違ったんですよ」。故郷に戻った理由について、范さんはこう打ち明けた。「中国には、『落葉帰根』(落ち葉は根に帰る)という古い言葉があります。故郷が懐かしくなったから、帰ってきました。もちろん、この辺りの観光業が大いに発展したことも理由の一つです」

茶館を後にして、さらに約15分歩いて、島の最高地点に到着した。そこには7層の文峰塔がそびえ立っており、最上階に登ると、巣湖と漁村の全景を一望に収めることができた。

 

 

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