変貌遂げる安徽省 ハイテクとエコで強み発揮(一)先端分野で抜群の成果示す

中国共産党第19期中央委員会第4回全体会議(四中全会)が昨年1028日~31日に、北京で開催された。会議では、「中国の特色ある社会主義制度の堅持と整備、国家統治システムと能力の現代化の推進における若干の重大な問題に関する党中央の決定」が採択された。この「決定」は、新時代の中国が発展する方向性を明らかに示したと言える。こうした背景の下、本誌記者は変化を遂げる中部地方の中でも代表格である安徽省の合肥市と黄山市に赴き、同省における科学技術イノベーションと産業のグレードアップ、環境保護、現地の人々の生活、日系企業の進出状況など多岐にわたって取材した。安徽省の二都市に起きている巨大な変化は、中国全土で起きている変化の縮図だ。

 

中国中部にある安徽省は、淮河と長江が東西を貫いている。中国大陸の南北は淮河を境としているため、安徽省は南北にまたがっているといえる。安徽省の東隣りは長江デルタで、江蘇省と浙江省に接している。改革開放以降、安徽省は発展した東部沿海地域に足並みをそろえる戦略を取っており、長江デルタ地域と産業面での提携を積極的に進め、中国の製造業の重鎮として発展を遂げつつある。中国初のマイクロコンピューター、初の窓用エアコン、世界初のDVDプレーヤーなどは同省で誕生したものだ。同省は今も中国最大の家電産業拠点であり、世界のノートパソコンの10台に1台、中国の冷蔵庫の3台に1台、洗濯機の4台に1台が、同省で製造された物だ。

新時代において、中国は経済の質の高い発展を提起している。安徽省はチャレンジをして成果を出す(1)という精神によって、科学技術イノベーションを足掛かりとし、スマート製造産業の発展に力を入れている。チップやディスプレイ、工業用ロボットなどの科学技術イノベーション企業が同省に生まれている。量子通信、音声認識、超伝導電磁石トカマク型核融合エネルギー実験炉、量子衛星「墨子号」などは、同省を代表する科学技術成果だ。同省は経済のモデルチェンジとアップグレードの道を歩んでおり、従来の農業省から、製造業大省、さらには中国の科学技術産業の要地へと華麗な変身を遂げている。

驚異的な成長

ハルビン工業大学ロボット(合肥)国際イノベーション研究院に、目を引くロボットがあった。ロボットのアームの先に毛筆を付け、エンジニアがアームごと毛筆を握って適当に文字を書く。エンジニアが手を離すと、アームはエンジニアの筆使いを再現し、全く同じ文字を書くという、舌を巻くほどの正確さを発揮した。このようなロボットアームを小型パラレルリンクロボットといい、モデルとなる動作を正確に学習する機能を持ち、人の動作を正確に模倣することができる。研究院のプロジェクト責任者の王莉娟さんによると、このロボットは人と機械の協力が必要となる多くの場面で活用でき、仕分けや包装といった複雑な仕事を人の代わりに行い、家庭用化学製品、食品、医薬品、教育科学などの分野で、大いに活躍する(2)だろうとのことだ。

中国でロボットは「製造業という王冠の上に輝く宝石」と言われ、その研究開発製造と実用化は、国家の科学技術イノベーションとハイエンド製造レベルを示す重要なシンボルとなっている。同研究院は2016年に、ハルビン工業大学ロボットグループと合肥経済技術ハイテク区の共同投資により設立されたもので、設立当初から安徽省の重要新興産業プロジェクトとされていた。研究院市場部ディレクターの銭程さんによると、この研究院はすでに次世代ロボットスマートコントローラーや多関節ロボット、減速機、ロボットオペレーションシステムなどの鍵となる分野において、飛躍的進歩を果たしている。産業への実用化の上で、この研究院は30体近いロボットとハイエンド設備産業プロジェクトを擁していて、工業製造業、都市管理、教育など多くの分野をカバーしている。研究開発した多くのスマートロボット製品はすでに実用化され、1秒半で一つの荷物の仕分けが可能なスマート物流システムは大手ネット通販企業の京東(JD.com)で使用されている。消防ロボットや爆発物除去ロボットはすでに多くの省の現場で使用されている。銭さんによると、2年余りの成長を経て、産業配置を完成させただけではなく、サプライチェーンに属する20社余りの企業の起業を成功させたという。

習近平総書記(国家主席)は16年4月に安徽省を視察した際、同省に「改革と革新を強化し、新たな道を切り開く努力をする」よう要求した。科学技術イノベーションのトップ企業の誕生を支援し、全サプライチェーンの配置づくりに努力することこそ、同省が模索した新たな道だ。

08年、ディスプレーメーカーの京東方(BOE)が合肥に移転し、合肥市政府は新型ディスプレー産業を突破口とすることを決定した。双方の努力の下で、BOEは国内初の大型ガラス基板――第6世代液晶パネル生産ラインを立ち上げただけでなく、さらに85世代液晶パネル生産ラインをも持つに至った。そして18年、BOEは世界初の105世代と呼ばれる最新鋭の液晶パネル生産ラインをつくりあげた。65インチ、75インチのディスプレー市場において、合肥BOEの出荷量は世界一となっている。その後、同省はこのプロジェクトのコア部品の製造に力を入れ始めた。安徽省は合肥を中心とし、蕪湖、蚌埠、滁州などの地区クラスの市と協力して、同省の新型ディスプレー産業をより集積させている。同省の新型ディスプレーサプライチェーンの生産額は18年に年間1000億元を突破した。

アイフライテックは合肥で1999年に成立した音声認識AI企業で、音声言語認識、自然言語理解、機械学習などのコア技術において、世界トップレベルの技術を有する。安徽省はこの1社だけでは足りないと思ったのか、2013年には合肥ハイテク区で「中国スピーチバレー」プロジェクトをスタートした。これは中国初のAI分野の産業拠点の構想だ。同省はさらに音声認識およびAI産業発展基金を設立し、その規模は合計50億元にも上る。基金は「スピーチバレー」内のプロジェクトを重点としており、投資割合が80%を下回ることはない。同時にトップ企業による科学技術型中小企業支援を奨励している。資金政策によるバックアップがあるため、「中国スピーチバレー」に拠点を置くAI企業は迅速な発展を遂げている。現在、「中国スピーチバレー」の企業数は637社あり、教育医療サービス自動車などの分野において130余りのAIソフトハード製品の開発商品化を行っており、18年には生産額が年間650億元を超えた。

ほかにも、フラッシュメモリーチップの製造、量子通信、精密医療などのハイテク技術企業や関連産業もまた、安徽省で絶えず発展拡大している。同省ではすでに24の重要新興産業集中発展拠点がつくられ、毎年60億元の財政先導基金(財政が出資する基金)が設立されている。同省科学技術庁の統計によると、18年末時点で同省のハイテク企業は5403社ある。イノベーション発展の成果は日増しに顕著となり、18年には全省の戦略的新興産業生産額における一定規模以上(年間営業収入が2000万元以上)の工業系企業の割合が35%を超え、ハイテク技術産業付加価値における一定規模以上の工業系企業の割合が40%を超え、ハイテク企業生産額が初めて1兆元台を突破した。省都である合肥の発展はさらに速く、06年から16年の10年間で、合肥の経済規模が八つの省都を追い越して、全国の省都のトップ10に躍り出た。統計によると、この20年間で合肥の国内総生産(GDP)は37倍増え、その成長速度は全国一で、世界を驚かせるスピードを見せている。

科学研究の要を押さえる

「科学技術イノベーションの鍵を握る者が、経済の質の高い発展のトップランナー(3)となる」とは、安徽省党委員会書記の李錦斌氏の言葉だ。科学技術イノベーションをけん引するためには研究開発にその足掛かりを求めなければならず、この分野において同省は惜しむことなく投資を行っている。

合肥市浜湖新区にある安徽イノベーション館は、イノベーションをテーマとした中国初の展覧館で、同省の科学技術イノベーションの成果である定常強磁場、量子衛星「墨子号」、無人航空機などを余すところなく展示している。

展覧館のエントランスホールには、巨大な装置の模型が展示されている。これは超伝導電磁石トカマク型核融合エネルギー実験炉で、俗に「人造小太陽」と呼ばれている。これには科学界の夢が託されており、海水の中に豊富に含まれる重水素が装置内の超高温という条件の下で核融合を起こし、それによって絶えずクリーンエネルギーを作り続ける。大量の投資と研究者の努力の下で、中国科学院合肥物質科学研究院はこのプロジェクトの第3代装置を研究開発し、世界初の非円形断面全超伝導トカマク型核融合エネルギー実験炉の使用を開始した。18年、この装置は摂氏1億度のプラズマ運転を実現し、重要な進展を遂げた。プロジェクトの責任者である匡光力さんは、今までの道のりをこう振り返る。「中国科学院の研究所一つに対する年間経費が100万元にも満たなかった時代に、政府はわれわれが造らなければならない設備の鍵となるシステム研究に、700万元にも上る研究開発費を一括で支給してくれました。科学構想が実現するまで、まだ任重くして道遠しという状況ではありますが、われわれの熱核融合技術はすでに世界トップレベルにあります」。ITER(国際熱核融合実験炉)計画に加盟している中国は、この計画の任務の10%を担っている。そして合肥市は、中国の科学研究任務の73%を担っている。

 トカマク型核融合エネルギー実験炉のほかにも、合肥市にはさらに定常強磁場実験装置と合肥シンクロトロン放射光施設という二つの大きな科学装置がある。三つの大きな科学装置が一つの都市にあるのは、中国では合肥だけだ。安徽省は科学研究機関と研究者の層も厚い。1970年、中国科学技術大学が合肥に開校し、同省に科学技術イノベーションの種がまかれた。この後、中国科学院合肥物質科学研究院、合肥工業大学、安徽大学などの大学や研究所、実験室が同省で成長し続けた。2016年8月、世界初の量子通信衛星である「墨子号」が発射に成功した。17年5月、世界初の光量子コンピューターが誕生した。同年9月、世界初の量子機密通信ネットワーク「京滬幹線」が完成した。これらの最先端成果は全て中国科学技術大学科学研究チームによるものだ。17年、合肥は上海に次いで全国で2番目の総合的国家科学センターに指定された。現在、同省は6000余りの科学研究機関(実験室)を持ち、科学技術イノベーションの重要な推進力となっている。 

強まる長江デルタのつながり

習近平国家主席は1811月に開催された第1回中国国際輸入博覧会の開幕式で、長江デルタ地域の一体化発展が国家戦略に格上げされたと宣言した。安徽省もまた、正式に長江デルタ地域の一部とされた。省都の合肥は、南京杭州とともに長江デルタの副中心都市となった。「中部の台頭」と「長江デルタの一体化」という二大国家級戦略にも組み入れられていることは、全省発展の原動力となっている。

地域の一体化発展は、中国が地域の発展と対外開放を協調的に推進するための重要な措置となっている。昨年5月22日に安徽省蕪湖市で第1回長江デルタ一体化発展ハイクラスフォーラムが行われた後、同省では長江デルタ地域主要指導者座談会、G60科学技術イノベーション回廊連合会議、長江デルタ都市経済協調会などの数十のイベントが相次いで開催された。

長江デルタの省の中でも、現在の安徽省の経済規模は、その他の地域に比べると小さい方ではあるものの、今まさに上位に追い付こうとしている。江蘇省蘇州市と安徽省滁州市が共同建設した中新蘇滁ハイテク産業開発区には、すでに生産を開始している企業が100社近くある。上海の張江と安徽省の合肥の二大総合的国家科学センターは、共同イノベーションプロジェクトをすでにスタートさせており、一部のハイテクプロジェクトで共同研究開発を進めている。昨年10月、安徽省代表団は上海市江蘇省浙江省と産業協力マッチングを行い、1度で118の協力事項を結び、その投資総額は1200億元にも上った。

地域の一体化が深く進むに従って、安徽省は近隣との良好な関係を築き上げつつ、経済の質の高い発展に向けてまい進し続けている。

 

人民中国インターネット版 2020年1月7日

 

 

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