湖南の激辛ソウルフード

 そろそろお腹が空いてきた。湖南の人々のソウルフードを紹介しよう。

 一口に言って湖南料理の辛さとは、唐辛子のカーッと火を吹くような直球の辛さだ。これに比べ、同じ辛さでも四川料理は「麻辣」と表現されるように、舌がジンジンしびれるような花山椒の辛さが特徴だ。

 湖南地方は一年を通じて雨が多く、湿度も高い。また夏の猛暑は中国でも指折りだ。このため、普段から辛いものを食べて汗を出し、新陳代謝を促して健康を保つ。冬は冬でしとしと雨が降り寒く、辛い料理で体の芯から暖まろうという考えだ。

 その辛い物好きの湖南人イチ押しの朝食が、紅湯牛肉メンだ。基本は、真っ赤な唐辛子スープにビーフン(米のメン)を入れた一碗だ。これに、お好みでキクラゲや煮込んだ牛バラ肉、ネギの千切りなどをトッピングする。

 「そんなに辛くないから食べてみろ」と勧められ、一口すする。なるほど見た目の深紅のスープに尻込みしがちだが、意外にもそれほど激辛ではない。牛肉とキクラゲもスープに合い、これだけでもイケる感じだ。しかし現地の人はつるつるとメンを口に運ぶ。

 「乳児のころから少しずつ辛さに慣れて、小学生の頃にはもういっぱしに大人の辛さで食べてたよ。ハッハッハ」。隣のテーブルのおじさんが豪快にスープをすすった。

 その辛い物好きの湖南人の性格は、中国では勇猛豪快情熱的と言われている。特に若い女性は「辣妹子」と呼ばれ、辛い物が大好きな活発で明るい性格の女性という。

 日本で暮らす湖南人の組織「日本湖南人会」の会長で、日本で華字紙を発行する日本僑報社の段躍中社長(61)は、婁底地区(冷水江市)の出身だ。湖南人の気質について、「チャレンジ精神があり、人情に厚い。女性の性格は少しキツイかな」と話す。また、「私の妻は北京出身ですが、辣妹子よりキツイですよ」と笑い飛ばした。

 汗を拭き拭き出た店は、新化県の旧市街にある老舗の老玖麺館。店のある向東街は、近くの資江という長江の支流の波止場につながる。資江を利用し、茶葉をはじめとして物流の中継地として栄えた向東街は、往時の繁栄の名残をとどめる。石畳の通りの両側には、明清時代の2階建ての店舗兼自宅が立ち並ぶ。歴史の雰囲気もたっぷり味わった朝食となった。