2015年10月7日にノーベル生理学・医学賞を受賞する屠氏(新華社)
2015年10月5日、スウェーデンのストックホルムにあるカロリンスカ研究所で中国の科学者・屠呦呦氏がノーベル生理学・医学賞を受賞した。屠氏はノーベル生理学・医学賞を中国人で初めて受賞した科学者となり、16年に米誌『タイム』の「最も影響力のある100人」の一人にも選ばれた。
なぜこのような栄誉が博士号を持っておらず、海外留学の経験もない屠氏に訪れたのか。スタンフォード大学のルーシー・シャピロ教授が屠氏に下した次の評価にその理由がある。「屠氏の発見は数億人の痛みや悩みを緩和し、100カ国以上の国々で数え切れない人々の命を救った」
アルテミシニンを万能薬に
1969年1月、衛生部(日本の省に相当)中国医学研究院の実習研究員だった39歳の屠氏は突然抗マラリア薬の漢方薬の研究開発を命じられた。60年代にマラリア原虫はキニーネやクロロキンなどの薬物にすでに耐性を持ち、マラリア患者は世界各地で増え続けていた。米国は大量の人材と物資を投入して新型抗マラリア薬の研究に取り組んだが、結果を出せず終わった。
プロジェクトを任された屠氏は大量にある中国医学の書籍から関連性のある処方箋640点を集め、それを逐一研究した。屠氏と同僚は100種類以上の漢方薬にさまざまな実験をし、数百回以上の失敗を繰り返して71年10月についにマラリア原虫の抑制率を100%近くまで高めた、ヨモギの一種クソニンジンからの抽出物であるアルテミシニン(2)を発見した。
それから屠氏はプロジェクトチームを率いてさらに努力を重ね、アルテミシニンを製薬した。臨床試験のときは自分の体で薬を試し、それから15年の研究と観察を経て、アルテミシニンはついに衛生部から「新薬証書」を授与された。
2000年以降、世界保健機関(WHO)はアルテミシニン系薬剤をマラリア治療に最適な薬品として選び、世界中に普及させた。WHOの「マラリアレポート」によると、00年から15年までの間で世界のマラリアでの死亡率が全ての年齢において60%低下し、5歳未満の子どもでは65%低下したというデータが出た。アルテミシニン系薬剤が重大な役割を果たしたのだ。
この偉大な医学の成果を表彰するために、15年に85歳の屠氏がノーベル生理学・医学賞を授与されたのだ。屠氏は、この栄誉は自分一人ではなく、中国の科学者全体への賞賛と奨励だと述べた。
屠氏にとって世界的な賞を受賞したことはアルテミシニンの研究に満足のいく終止符を打つものではなく、新しい道の始まりを意味する。屠氏の同僚の張伯礼氏は「屠氏は何度も私たちに、受賞のことはこのぐらいにしてアルテミシニンの研究を頑張ろうと言っていた」と述べた。
現在、ますます多くの若者がアルテミシニン研究のチームに加わり、3人だった「屠呦呦チーム」は20人以上に増えた。彼らのアルテミシニン「コード」解析によって、発見されてから40年になるこの薬品の幅広い効能が明らかになった。臨床試験によって紅斑、腫瘍、白血病、関節リウマチ、アレルギー性疾患などの難病に独特な効果を持つことが実証されている。
現在88歳の屠氏は今でもアルテミシニン研究の現場に立ち、自身が長年かけてつくり出したアルテミシニンを「一種の病気を治す」薬から「多くの病を治療する」薬にしようとしている。
中国医薬の可能性探る
18年の新年に当たり屠氏は三つの抱負を立てた。一つ目はアルテミシニンが持つより多くの「秘密」を見つけ、「研究論文を病気の治療薬に変える」ことだ。彼女はチームを率いてアルテミシニンが病気を治す薬理をはっきりさせ、さらに十分な薬効を発揮させ、さらに多くの役割を果たすようにしている。
「科学とは事実に基づき真実を求めるものです。薬物にとって重要なものは効き目であり、われわれはいま論文を薬に変え、アルテミシニンがさらに人類に恩恵をもたらすようしなければいけません」と屠氏は語る。
二つ目は中国医薬国家実験室を創設し、国内外の人材を集めることだ。屠氏は中国中医科学院アルテミシニン研究センターが国家級実験室に昇格することを望んでいる。「いまの中国は中国医薬事業を重視しているので、われわれはハイレベルでハイクラスな中国医薬研究プラットホームをつくり、最先端の科学技術でアルテミシニンを徹底的に研究し、本当の意味での東西両医学の融合を果たしたい」と屠氏は語る。そして、ハイレベルな研究プラットホームは国内外のハイレベルな科学者を自然に引き寄せる。「われわれはもう才能あふれる若者を呼び寄せています。彼らはアルテミシニン研究の推進に当たり多大な貢献をしてくれていますが、まだ人手不足の感が否めません。さらに多くの人材を国内外から集める必要があります」。こう話す屠氏の周りには数十年間チームで一緒に仕事をしてきた姜廷良氏や廖福竜氏がおり、屠氏は同僚たちを見ながら残念そうにこうつぶやいた。「われわれはもう年を取り過ぎました」
三つ目は最新の科学技術を使って中国医薬に革新・伝承・発展の新しい道をつくることだ。WHOのデータによると、16年末で世界91の国と地域のおよそ半分の人口がまだマラリアの脅威にさらされ、その年は2億1200万人の発症例があり、40万人以上が亡くなったとされる。マラリアはいまだに死を招く世界三大感染症の一つなのだ。だが屠氏ら中国の科学者が中国医薬の古典籍からヒントを得て、アルテミシニンを発見したことによって多くの人々が死神の手から救われた。アルテミシニンの実際の効果は世界に中国医薬の効能を認めさせた。「最新の科学技術をどのように運用して中国医薬を受け継ぎ、発展させ、利用させていくのかは中国の科学者が解決しなければならない当面の問題です。健康とは人々が素晴らしい生活を実現する前提条件です。より多くの医学研究の成果が実際に生かされることで、より多くの患者を苦痛から解放させることが中国医薬業務に従事する一人一人が持つ目標と責任です」と屠氏は語る。
15年10月7日に時間を戻す。ノーベル賞授賞式の場で屠氏は世界に向けて真意を語った。「アルテミシニンは中国伝統医学が人類に与えたプレゼントです。中国とアジアの人々は長年にわたって中国医薬に助けられてきました。伝統的な医薬の開発は世界により多くの治療薬をもたらすでしょう。今後も国際的な協力を展開し、中国医薬と他の伝統的な医薬が人類の健康にますます多くの貢献を果たすことを望みます」
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