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2018年中国政府活動報告を読む

 

木村知義 ジャーナリスト、元NHKアナウンサー

今回の政府活動報告を読みながら陸上競技の「三段跳び」を思い浮かべた。

報告は第12期全人代第1回会議以来の5年間の「道のり」を振り返ることから始まっている。この5年で中国は何を成し遂げ(ホップ)、今なお何が足りないのか、その自己認識を深め、足元を固めたうえで今後の目標を明確にし、目標の達成にまい進する(ステップ)、そして、中国が掲げる「二つの百周年」のうちの新中国成立百周年である今世紀半ばに向けて新たな中国の姿を実現しよう(ジャンプ)という思考、論理だと読み取った。

言葉を変えれば、今年が、昨年秋の第19回党大会の決定とそこに込められた精神、思想を国政の場で実行に移すスタートの年にあたるということ、さらに「改革開放40周年」であり「小康社会」(ややゆとりのある社会)の実現が視界に入ってきた中国がさらに高い段階を目指す時に至ったという歴史的位置づけを明確にして将来を構想しているということである。その意味で今回の政府活動報告は昨年の第19回党大会における習近平総書記の報告や大会決定と一体のものとして読み取る必要があるといえるだろう。

報告の内容は多岐にわたり具体的だ。税負担や課税制度からイノベーションを担う人材に対する待遇の改革、文化、芸術分野の施策、「トイレ革命」に至るまで微に入り細を穿(うが)つ提起が盛り込まれている。また、ビッグデータや人工知能(AI)などの研究開発、新エネルギー自動車産業の発展など、製造業の革新、高度化を通じて「中国製造2025」を目指すという決意が現実的な説得力を持って迫ってくる。

なによりも経済、民生に最大の力を注いで中国社会をより高い発展段階にせり上げていこうという気持ちが込められていることに共感を抱いた。たとえば、「農村の貧困人口をさらに1千万人以上減少させる」「都市に移転し、新たに定住する者の数を1300万人とし、農業からの移転人口の市民化を加速させる」など、いま中国社会が抱える都市と農村の矛盾にどう立ち向かうのかをはじめ、貧富の格差、地域格差の克服に向けて全力を傾けるという強い問題意識が伝わってくる。さらに、こうした「量から質へ」の力強い発展を目指すためには「思考の転換」が必要であることを懸命に呼びかけていることがわかる。

同時に大事なことは、これらの経済・民生への施策が内政にとどまらず世界における中国のあり方、外交政策と深く相関することが見えてくることだ。「対外開放」の堅持によって「開放型経済」のレベルを高め「ウインウイン」の関係を生み出すことで多様な国際関係を結び、平和的に共存、発展を目指すという新らたな世界のあり方、未来の世界像への期待を抱かせる。とりわけトランプ政権の米国が「自国第一主義」「保護主義」への傾斜を強めている時、中国とどういう関係を結ぶのかは世界の全ての国々にとって避けて通れない命題となっている。日中関係を前に進めるためにも、いま中国が目指そうとしている「未来の姿」すなわち成長・発展に向けての「中国モデル」がどういうものであるのかの理解を深めることがますます重要になっていることを、また痛感した。しっかりとした時代認識に立ち、視界を広く、深く持たなくてはならない。これもまた今回の政府活動報告を読みながら抱いた感慨である。

中国が掲げる「二つの百周年」に向けて「坂を登り峠を越える」という今回の報告に示された決意が実を結び、大輪の花を咲かせることを期待したい。

 

人民中国インターネット版 2018312

 

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