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2018年全人代『政府活動報告』の読後感想 

西園寺一晃(東日本国際大学客員教授、北京大学客員教授)

 

 今年は中国の改革・開放がスタートして40年目に当たる。この間、世界では冷戦構造が崩壊し、グローバル化の時代に入り、従来の枠組みは大きく変わりつつある。グローバル化は歴史の流れであるが、グローバル化に逆行する現象が一部で生まれている。このグローバル化と反グローバル化の矛盾は、世界情勢を複雑化させている。世界は大きな転換期を迎えている。中国は経済を中心に大変身を遂げ、第2の経済大国に躍り出た。国際社会における中国の存在感は飛躍的に増し、その影響力は日増しに強まっている。中国は依然として発展途上にあるが、米国と並ぶ大国になるのは時間の問題である。しかし、中国も多くの課題を抱え、更なる改革と開放が不可欠である。そして、大きく変化する世界の中で、その変化に対応する必要がある。その意味で、中国も転換期を迎えていると言える。このような状況の中での全国人民代表大会(全人代)であり、中国の動向が国際社会の注目を集めている。李克強総理の政府活動報告(以下「報告」)は、成果・課題・今後の方向と具体的政策などを全面的に述べている。なお、全人代は党大会の決定を受けて、その決定を具体化するもので、それを実行するのは政府である。従って、第19回党大会における習近平総書記の報告と全人代における李克強総理の報告は合わせて読むべきである。中国が抱えている課題は多いが、私は「報告」を読んで、主要な課題は3つあると感じた。

 

 第一は、長期的な政治的安定を図ること。今後の中国の動向を観察するためのキーワードは「五位一体」「四つの全面」「新時代の中国の特色ある社会主義」「新型大国関係」であろう。これらは「習近平思想」の重要な内容であるが、これらを推進する基礎は長期的な政治的安定である。「報告」では、そのための幾つかの具体的課題が提起された。中国のような体制の下では、「法治」をさらに充実させるのは当然として、同時に幹部の資質がことのほか重要である。そのためには、幹部の登用・退任制度、政府機構の改革が必要であり、そのための法改正は当然であろう。さらに、聖域なき反腐敗を中途半端で止めないという固い決意が伝わってくる。中国経済は驚異的発展を遂げたが、一方でさまざまな副作用が現れた。その1つは上から下までの腐敗の蔓延である。この状況が続けば、中国共産党は求心力、権威を失い、人民から見放されただろう。指導の中核が崩壊すれば、国は乱れ、これまでの輝かしい成果は水泡に化す。この悲劇は中国にとどまらず、世界経済が大混乱に陥ったであろう。その意味で、習近平指導部は中国を救い、世界を救ったと言える。「報告」では、政治面、行政面から政治的安定を保障しようとする多くの方策が提起されている。

 

 第二は、経済における安定的・持続的発展の実現である。「報告」では、この5年間の成果が9方面から総括されている。今後とも経済の持続的発展が不可欠だが、問題はその内容であり、成長のスピード(量)を追求することから、成長の内容(質)を追求することが再確認された。さまざまな措置を通じ、中国経済の成長を「外需型成長」から「内需型成長」に転換させることが強調されている。そのために金融改革、国営企業改革など一連の改革案が提起された。課題も率直に提起された。特に人民の不満が大きい住宅、教育、医療面の改革は急がれるだろう。今年の目標成長率は世界的に注目されていたが、6.5%であった。これは高速でも低速でもなく、中速と言えるが、世界経済の中では高速の部類に入る。つまり、中国経済は非常に正常かつ安定的に前進していると言える。ここ数年来、国際社会の一部では、中国経済の「減速」が止まらず、中国経済は「崩壊」に向かうとの論評が出ていた。しかし中国経済は、「中進国のワナ」を克服し、見事「安定成長」軌道にソフトランディングしつつあると言っていいだろう。国際社会はホッとしている。中国経済の正常な安定成長は、世界経済に利益をもたらし、世界経済に貢献する。その一方で、中国経済と世界経済の相互依存関係はますます密接になっている。中国経済の正常な発展は、世界経済発展の不可欠な要素だが、その逆もまた真理である。世界経済が開放的で、協調的であることが中国経済発展の推進力となる。その意味で、「報告」は自由貿易の堅持と推進を強調し、閉鎖的な保護貿易に断固反対している。

 

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