ホーム ホットニュース 最新ニュース 代表・委員 フォーカス 独占取材 写真による報道
村田忠禧 李克強総理の政府活動報告の特徴

 

 

全人代での『政府活動報告』(以下『報告』と略称)が発表されると日本のマスコミは毎回こぞって中国の国防予算の増大ぶりを報道する。しかし26倍の国土、10倍の人口を有する中国の国防予算が日本の4倍という事実になぜ大騒ぎする必要があるのか。「中国脅威論」という古臭い色眼鏡を外して、今の中国がどのように変わりつつあるのかを『報告』から見いだす努力が必要ではなかろうか。ただし『報告』は今日の中国を知るための百科事典のようもの。分量も多いし、内容も多岐にわたっており、以下は拙い、消化不良なままの文章である。

 

市場経済の前進 

人々は資本主義=市場経済、社会主義=計画経済というドグマに長らく縛られてきた。中国は改革開放政策の実践を通じて、経済建設における「市場」の役割に対する認識を深めてゆき、「社会主義市場経済の建設」を明確な目標に定めて経済建設を進めてきた。昨年の『報告』では「市場」という語彙は37回登場するが、今年は5割増しの56回も出現する。

中国における企業といえば以前はすべて国有もしくは集団所有であったが、経済の発展と共に国有以外の企業が続々と誕生していった。当初は国民経済の「補完」物と見做されていたが、改革開放の進展につれ民営企業の数は著しく増加し、2010年は89.8%であったのが2017年には94.6%を占めるにいたっている。国有企業は2.4%から0.7%へと減少している。「インターネット+」という政策を提唱したことにより、新産業、新業態、新ビジネスモデルが誕生し、労働者の就業の機会を増やしている。この傾向はいっそう強まるであろう。

昨年の『報告』では「民営」という語彙は3回登場したが、今年は8回に及ぶ。民営企業の多くは運輸通信サービス業などの第三次産業であり、生活に密着した企業活動は便利で快適な暮らしの実現に貢献している。

しかし民営企業の大半は中小零細企業であり、大手商業銀行からは融資の対象として扱われないなど、さまざまな困難に直面している。

『報告』はアメリカが発動した経済貿易摩擦による「国外からの影響に起因するリスクが高まっている。国内経済は下押し圧力が強まり、消費の伸びが鈍化し、有効投資が伸び悩んでいる。実体経済がかなり多くの困難に直面しており、民営企業や小企業零細企業の『資金繰り難、資金調達コスト高』問題がまだ効果的に改善されておらず、ビジネス環境がまだ市場主体の期待に応えるものになっていない」と現状の厳しさを率直に指摘している。

外圧は苦痛を伴うが、改革をいっそう前進させる要因にもなりうる。

 

監督管理が政府の本分 

市場を監督管理するのが政府の役割である。「政府は、自身が管理すべきでないことはきっぱりと市場に任せ、資源配分への直接的関与を最大限減らし、審査認可事項をできるだけ少なくし、審査認可が不可欠な事項については手順と段階を削り、企業がもっとビジネスに時間を使え、審査認可に労力を費やさなくてすむようにしなければならない。」

「オンラインによる審査認可やオンラインサービスを推進し、早急に『オンラインワンストップであらゆる手続きができ、その地区にいなくても手続きができる』ようにし、非対面で手続きができる事項を増やし、どうしても窓口に出向かなければならない手続きについては、一つの窓口で決められた時間内に手続きが終わり、一度足を運べば済むようにする必要がある」と事務処理の迅速化、簡素化の実施を積極的に提唱している。

 

「インターネット+」の具体例

ここで私自身の体験を紹介しよう。昨年7月に北京を訪問した。その際の目的の第一は私のスマホを中国のスマホとして使える環境を作ることである。Android系スマホは2枚のSIMカードが使える。しかし日本で買ったスマホなので、表示が日本語であるため、中国スマホの設定にするのに店員さんもいささか苦労したが、1時間ほどで作業は完了した。

そこで次に銀行に向かった。日曜にも関わらず、北京では銀行の一部が営業するようになっていて、口座開設にも対応してくれる。中国の銀行のサービスの悪さには腹が立つことを何度も体験したが、今回はすっかり変わっていた。外国人旅行者にすぎない私は、パスポート、自動車運転免許証、「マイナンバーカード」を持参していったが、中国においてはそれらを本人確認の決め手にすることはできない。スマホを所持していることが不可欠なのである。窓口で対応してくれる行員さんとの間でSMSメッセージのやりとりをして本人確認がなされる。書類に記入する必要もあるが、その書類をコピーではなく、スキャナで読み取り、電子データとして保存する。窓口で応対する行員と、別室で監督承認する行員の二人で事務処理をしているようだが、ネットワークによるやりとりなので、迅速に処理でき、短時間で口座を開設することができた。今の日本の銀行では考えられないことである。

私が北京で体験したことは変わりつつある中国のきわめて初歩的な事例に過ぎないのだろうが、「インターネット+」という政策が社会のさまざまな分野で根付いていることを示す一例と言えよう。

スマホという端末が普及したことで、情報の電子化とネットワーク化が社会のさまざまな分野で進行し、迅速、快適、確実にものごとの処理が行われるようになった。これが5Gの時代になるとどのような展開を見せるのだろうか。楽しみである。

 

高度な技能を備えた人材の育成 

これまで中国は職業教育にあまり力を入れてこなかった。大学卒の学歴を持った人間は生産現場に入りたがらない。生産現場では人手不足なのに大卒者は就職難という奇妙な現象を目にしたことがある。昨年の『報告』でも職業教育については一般的言及しかなされていない。

それが今回の『報告』は大きく変わっている。

現代職業教育の発展を加速させることは、当面の雇用圧力の緩和につながるだけでなく、高技能人材不足を解決する戦略的施策でもある。

高等職業学校の入試制度を改革して十全化し、新規高卒者をはじめ退役軍人失業者農民工などがより多く受験するよう働きかけ、今年は、入学募集定員を大規模に拡大して100万人増やす。

高等職業学校の各種奨学金の対象範囲を拡大し、補助基準額を引き上げ、学歴証書と職業技能等級証書のマッチングを急ぐ。

高等職業学校の運営体制を改革し、学校運営の質を向上させる。

中央財政は高等職業学校への投入を大幅に増やし、地方財政も支援を強めなければならない。

中等職業教育国家奨学金を設立する。職業教育への企業や民間の参入をサポートする。

われわれは、現代職業教育の大改革大発展によって、国家の発展に至急必要な各種技術技能人材の育成を急ぎ、より多くの若者たちが専門技術技能を活かして自己実現できるようにし、綺羅星のようにたくさんの人材があらゆる業種に集まるようにしなければならない。

生産現場に専門的技術技能を備えた人材が大量に存在することは、製品の質を向上させ、先端的製品を登場させるための必須条件である。この過程のなかで「労働者」と「幹部」の溝が次第に埋められていくだろう。

 

自主性を尊重する気風の育成 

『報告』にはもっと本質的で大きな変化が発生するかも知れない、と思わせる記述がある。

「科学技術による支えを増強する」という部分を箇条書きにしてみる。

基礎研究応用基礎研究をいっそう支援し、独自のイノベーションを強化し、基盤技術コア技術のブレークスルーに力を入れる。

企業を主体とする産研一体型のイノベーションの仕組みを整える。

国際的なイノベーション協力を拡大する。

知的財産権の保護を全面的に強化し、知的財産権の侵害に対する懲罰的賠償制度を整え、発明創造とその転化実用化を促進する。

科学技術革新は本質的に人間の創造的活動である。

科学研究者を十分尊重信頼し、イノベーションチームやイノベーションリーダーにヒトモノカネおよびテクノロジーロードマップに関するより大きな決定権を与える必要がある。

基礎研究プロジェクトの間接経費の割合をさらに引き上げ、プロジェクト経費を使用する際の自主決定制改革の試行を展開し、項目の割合制限を設けず、科学研究チームが経費の使用を自主的に決定できるようにする。

科学技術体制改革の諸措置を効果が出るまで徹底して実施するよう努め、改革政策を決して口先や書面上だけのことにしないようにしなければならない。

煩わしい手続きなどの簡素化や廃止に力を入れて、科学研究者が研究に専念してイノベーションやブレークスルーをはかれるようにする。

科学研究の倫理学風づくりを強化し、学術的な不正行為を処罰し、うわついた傾向を厳

しく戒める。

基礎研究には地道な作業の積み重ねが不可欠で、失敗や成果がすぐには見いだせない、というようなことは当たり前である。直ちに答えが見つかるような研究からは新発見は生まれない。その点で研究者の主体性、自主性を尊重する姿勢を打ち出している『報告』に、新しい中国の動きを感ずる。そのためには科学者研究者の「倫理と学風づくり」が不可欠である。

自覚を持った人間集団がさまざまな分野で育っていけば、活気に満ちた局面が必ず訪れることは間違いない。

 

人民中国インターネット版 2019年3月11日

人民中国インタ-ネット版に掲載された記事・写真の無断転載を禁じます。
本社:中国北京西城区百万荘大街24号  TEL: (010) 8837-3057(日本語) 6831-3990(中国語) FAX: (010)6831-3850