元NHKアナウンサー、ジャーナリスト 木村知義
「困難」と「厳しい試練」について、これほどまでに率直に語る『政府活動報告』(以下『報告』と略)を前にして、中国がここまで力強く階段を登ってきたかという感慨を強くした。困難について語ることは、弱さではなく強さである。このことをまず、私たちは知ることになる。
GDP成長率をはじめ、経済・社会発展の主要な数値目標が示されたのはもちろんだが、「新時代の中国の特色ある社会主義」を掲げる中国にとって持続的な発展は可能なのか、それはどのような社会として実現されるのか、産業、経済、民生、環境から外交、それらの根本を成す政治のあり方にいたるまで、その答えと決意が『報告』に網羅されている。
金融財政政策では随所で「ばらまき」はしないと語り、規律ある政策運営の徹底が強調される。また、供給サイドの構造改革と並んで製造業と小企業、零細企業の税負担の軽減、増値税改革の深化によって経済発展の持続力を増強すると語る。中国の企業関係者から経営の先行きへの不安を耳にすることがあるので、こうした「小」と「零細」に目を向けた施策には期待がかかる。
さらに「貧困脱却堅塁攻略」を掲げ、貧困の解決にこれまで以上に力を注ぐことが強調されている。そして教育を「貧困の世代間連鎖を断ち切る根本手段」と位置づけていることも重要だ。農村や内陸部などとの地域格差の解消によって、都市にとどまらず中国全体の「小康社会」達成にむけての方向性が見えることは人々を勇気づけるはずだ。
60歳以上の人口が2億5000万人に達していることを挙げて「高齢者の生活を幸せなものにすれば、後に続く世代の人々が未来に期待をもてる」と語る。一足先に少子高齢社会に踏み込んだ日本のわれわれと手を携えて知恵を絞り立ち向かう、日中の新たな協力分野となる可能性を感じる。
中国が常に強調する更なる開放と「ウィン・ウィン」の関係構築にかかわって「国内企業と外資企業が分け隔てなく平等に遇され公平に競争する公正な市場環境を整える」ことを明確にしたことは、きわめて重要で注目すべきものだと言えよう。
世界はこれまで以上に今年の全人代に注目している。
「今日の世界は百年に一度の大きな変化に直面している」と『報告』が指摘するように、既存の世界秩序は激しく揺れている。「米中貿易紛争」、世界経済下振れの懸念など、不透明感と不安が世界を覆うなかで、中国はどう針路を定めるのか。この問いに対して『報告』は、単に現状を「守る」のではなく、新たな時代を創っていこうと呼びかけている。
「歴史は奮闘によってつくられ、未来は実行によって叶えられる」
『報告』末尾のこの言葉は、中国のみならず、世界の人々の心に響くメッセージとなっている。新中国成立70周年という歴史的な節目の今年、さまざまな困難と試練を乗り越えて中国が力強く歩むことを確信させる『報告』である。
人民中国インターネット版 2019年3月6日