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2022年の中国経済と外交の注目点

キヤノングローバル戦略研究所研究主幹 瀬口清之(談) 

  昨年来、「共同富裕(共に豊かに)」は国際社会が中国経済をウオッチする際のホットな話題となっている。中国人の友人たちの話を聞く限りでは、一部の大手IT企業の経営者が拝金主義に走って貧富の格差を拡大させたことについて、一般庶民からの不満が非常に強かったようだ。また彼らがモラルを欠いており、民間企業の自由な競争を邪魔することで自らの収益を拡大したほか、大企業が小さな企業をいじめて儲けているという話も聞いている。 

  そうした事態を、共産党としても政府としても見逃すわけにはいかないだろう。社会の矛盾に対して庶民が怒っている状況に対して「共同富裕」を掲げ、社会のモラルに反するような拝金主義的行動を抑制するのは、社会の安定確保と経済の健全な発展のためには必要なことだ。 

「共同富裕」実現の道 

  「共同富裕」の本格的な実現のためにどうしてもやらなければならないのは、社会全体の所得再分配の制度化だ。 

  第一に挙げられるのが不動産税の導入で、中国の場合は特に不可欠だ。第二に相続税と贈与税のセットであり、第三は個人所得税における富裕層の税負担を重くするための累進税の強化だ。この3点を制度的に取り入れて所得再分配を強化し、「共同富裕」をより実効性の高いものにするのが、今後の中国の重要課題として広く認識され始めているように思える。 

  3つの税制改正は、富裕層からの抵抗が非常に強いと思われるため、今後の政策運営の舵取りは簡単ではなかろう。しかしこれを実現しない限り、社会の安定を保つのは難しくなるだろう。全人代の税制改正で不動産税、相続税・贈与税の導入、さらに個人所得税の累進度の強化がどの程度言及されるかに注目したい。 

色あせぬ魅力の中国市場 

  2年以上にわたる新型コロナウイルスの感染拡大、長期化する中米対立の深刻化による「デカップリング」、中国のサプライチェーンの移転などは、今も盛んに議論されている。しかし、グローバル市場で高い競争力を持つ外資企業の対中投資に対する積極性は今後も変わらない可能性が高いと私は見ている。一つの象徴的な事例は米国の巨大金融機関やヘッジファンドが、中国のハイテク企業向けを中心に、対中投資を急速に拡大していることだ。これは米国内では強い批判を受けているが、収益性が高い投資であるため、経営体としてこれを止めるという選択肢はないと思う。 

  中国と厳しい対立関係にある米国の企業自身が、それほどまでに積極的に対中投資をしていることを考えれば、欧州企業も日本企業も当然追随する可能性が高い。世界のどの国を見ても、2035年くらいまでは中国の魅力に勝る市場は出てこないだろうというのが、今のグローバル企業の間のコンセンサスだ。そのあとは東南アジア、インド、アフリカなどの市場が拡大していくだろうが、少なくとも今後10年少々は中国の国内市場が最も魅力的という時代が続くと考えられている。よって欧米及び日本などの中国市場の重要性がよくわかっているグローバル企業は、現在のような積極的投資行動を続けるだろう。 

  しかし、ここに来て出てきている不安材料は、ロシアとウクライナの問題だ。もし中国がロシアと共に厳しい西側の制裁対象に含まれる事態に巻き込まれたらどうなるのか、ということだ。中国がロシアとウクライナとの平和的解決に向けた調停に協力すれば、制裁が及ぶ可能性は極めて低い。しかし、仮に中国がロシアを支持する側について中国に対しても制裁を発動せよということになった場合、積極的に対中投資を行っている米国の金融機関等が制裁の対象となるといった事態にもなりかねない。そうなれば、今後も伸びると予想されている対中投資の拡大も、制限を受ける可能性はゼロではない。中国の経済発展のためには、ロシアとの関係を上手くさばく必要があるだろう。(呉文欽=聞き手、構成) 

 人民中国インターネット版 

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