花嫁送る豪華な「十里紅粧」

袁舒=文

呉維春=写真

 越窯秘色磁の落ち着いた深みのある青色とは対照的に、情熱的で華やかで忘れられない赤色が寧波にある。それは浙江省東部に息づく嫁入りの習俗「十里紅粧」だ。結婚式の当日、花婿が馬に乗って先導する一団が、かごに乗って後に続く花嫁を花婿の家まで案内する。その後には、花嫁が実家から持参するさまざまな嫁入り道具を担ぐ数十人の列が続く。嫁入り道具は、大きなもので木製の衣装ダンスやテーブル、椅子などの家具から米や小麦粉、油などの食料品、小さなものでは裁縫道具や花瓶などの生活用品まで、新婚夫婦の生活の全てをカバーする。

 

寧波市寧海県の村民によって再現された華麗な嫁入り行列の「十里紅粧」

 「十里紅粧」の行列の中で最も人目を引くのは、花嫁が乗る8人がかりで担ぐ大きなかご「万工轎」だ。寧波の伝統工芸「朱金木彫」を施したかごは、動く華やかな小宮殿のようで、紅色の漆を塗った精巧な木彫りのかご全体に金箔が貼られている。つり下げられた宝石のすだれが動くたびに揺れ、実に魅力的だ。

 このかごの由来については、美しい伝説がある。宋の康王趙構が金軍の兵士に追われて寧波に逃げ込んだ時、一人の村娘に助けられた。趙構は将来、人を派遣してこの娘を宮中に迎え入れることを約束した。しかし、趙構はその娘を再び見つけることができなかった。そこで、「浙江東部の女性が嫁入りの際には、皆宮中と同じ扱いをする」との御触れを出し、この地域の女性が結婚する際には鳳凰の冠をかぶり、龍と鳳凰の彫刻が施され8人で担ぐ華やかなかごに乗ることを許した。

 

浙江・東部の風習で花嫁が嫁入りの際に乗る豪華なかご「万工轎」。これは寧波・江北にある結婚用品の老舗貸し出し店「老徳昌」の万工轎。寧波の旧市街地に暮らす90歳以上の老婦人の多くは、このかごに乗って嫁いでいった

 そこで南宋以降、寧波の娘が華麗なかごに乗って嫁いで行くという習俗が定着し、「万工轎」の飾りや造りもますます粋を尽くすようになっていった。その制作の複雑さを、職人が「1万時間もかけて作る」と例えたことから、「万工轎」と呼ばれるようになった。このようなかごは、普通の庶民が持てるものではないので、昔はかごを専門に貸し出す店があり、1回にコメ1石(約30㌔)で貸し出した。

 無形文化遺産「朱金木彫」の伝承者である黄才良さんは、「朱金木彫」を施した家具を多数収蔵する東方芸術造型博物館を設立した。ここには中国各地や日本、インドなどの仏像も展示されている。これらは黄さんが仏像彫刻を学ぶために世界各地を訪れ、技術を学んだ際に集めたものだ。黄さんが彫った仏像は緻密な曲線と優美な表情が評判で、1990年代以降、多くの作品が日本に輸出されている。

 

同じく寧波市の伝統工芸である泥金彩漆(木製の容器に金箔を混ぜた粘土と朱色の漆で飾り付けをする工芸)の作品を作る黄才良さん。背後にあるのは朱金木彫の家具