古今の書籍収蔵「天一閣」

袁舒=文

呉維春=写真 

 寧波は数多くの著名人の故郷でもある。唐代の書家・虞世南や、明代の思想家で儒学者の王陽明、日本に渡って儒学を広め、水戸学を興した徳川光圀の教授役として仕えた朱舜水、さらに現代では世界の海運王・包玉剛、中国初のノーベル医学・生物学賞の受賞者・屠呦呦など挙げればきりがない。

 著名人を輩出した大きな理由の一つは、寧波人に読書と蔵書を愛する伝統があるからだろう。歴代の王朝にはそれぞれ有名な蔵書家や書庫があるが、現存する書庫で最も有名なのが「天一閣」だ。

 この古い書庫は、アジアで現存する最古の私家書庫であるだけでなく、世界で現存する最古の三大個人図書館の一つでもある。天一閣は1566年に建てられ、明の兵部右侍郎(現在の国防省次官に相当)だった范欽の個人的な書庫だった。

 現在では30万巻近くのさまざまな古書を所蔵しており、その大部分が明代の木版印刷本と写本で、国内で一冊しか残されていないというものも少なくない。大金持ちではなかったが、書籍を集めるのが好きだった范欽は、あちこちに足を運んでは購入に心を尽くし、当時収集した書籍は7万巻を超えた。清朝の乾隆帝が学者を結集し『四庫全書』を編集させた際、天一閣が朝廷に進呈した書物の数は最も多く、同書の編集に大きく貢献した。

 天一閣に入ると、そこかしこに古い書籍の香りが漂っている。この独特な香りは、紙や墨汁のにおいだけでなく、ほのかな薬草のにおいも混じっている。これは四川省と雲南省一帯で採れる薬草で、優れた防腐効果がある。

 

古書は紙質が軟らかなため、平積みで保存されている。本の上に積まれている白い布袋には、防腐用の薬草が入っている