イェール大学スティーブン・ローチ上級研究員 なぜ中国経済は力強く反発すると言えるのか

 

スティーブンローチ氏はイェール大学ジャクソンインスティテュートオブグローバルアフェアーズの上級研究員であり、かつてはモルガンスタンレーアジア会長および首席エコノミストを務めていた。中国経済、アジア経済が世界に及ぼす影響について長く研究してきたローチ氏の観点は、中国、アメリカなど多くの国の政策議論に大きな影響を与えてきた。

2003年のSARS流行期にローチ氏は中国にいた。このほど、新型コロナウイルスによる肺炎が中国経済に及ぼす影響について、ローチ氏は本誌の取材に対し、現在の中国経済は2003年と比べて世界でより大きな影響力を持っていると述べた。

最近のあなたの予測では、新型肺炎が収束したのちに中国経済は力強く反発するとしていますが、中国経済の強靭さは何に由来すると考えていますか

2020年初めに新型コロナウイルスによる肺炎の影響を受けて、中国経済がおおむね停滞に陥ったのは否定できない。しかし、この度の事態が中国経済の内生的原動力を弱めることはない。このような力強い勢いは主に中国が四つの鍵となる経済のモデルチェンジを実現していることによる。投資輸出牽引型の成長から消費牽引型の成長への転換、製造業からサービス業への転換、貯蓄過剰から貯蓄の吸収への転換――つまり国内の貯蓄水準の下降が実際には中国の社会保障システムに大量の資金をもたらし、可処分所得による家庭消費が絶えず伸びていること、そしてイノベーションの導入から自主的なイノベーションへと移行していることだ。

2003年のSARS流行期にあなたは中国にいました。当時と比べて現在の中国経済はどこが異なりますか?より強靭になっているでしょうか、それともより脆弱になっているでしょうか

2003年に比べて現在の中国経済は規模がより大きく、発展はよりバランスが取れており、国際的地位もより重要になっている。人民元で算出すると、中国の国内総生産(GDP)は17年前の7倍前後だ。国際通貨基金(IMF)の購買力平価で算出すると、中国が世界のGDPに占める割合は現在19.7%で、これは8.7%だった2003年の2.3倍だ。それと同時に、中国経済の製造業への依存度もある程度下がっており、第二次産業がGDPに占める割合は2003年の45.6%から2018年の40.7%に減っている。17年間のサービス業の目覚ましい発展も第三次産業がGDPに占める割合を10ポイント高め、2003年の42%から2018年の52%まで伸びている。

2008年の世界金融危機以降、世界経済がおしなべて危機に陥った後回復力が極めて乏しい苦境にあって、中国経済は引き続き成長を保ち、世界全体における成長の37%を占めた。新型肺炎の影響を受けて短期的に一定の変動は起こり得るとしても、より一層発展バランスの取れた中国経済は2003年のSARSの時期に比べてはるかに弾力性を持っている。それと同時に、現在中国に対する世界の依存度は当時を大きく上回っており、中国経済の短期的な変動はグローバル経済の成長により深刻な影響を与えるに違いない。中国がくしゃみをすれば世界が重い風邪にかかるリスクは、2003年よりも現在の方がはるかに高くなっている。

この度の事態の発生がグローバル経済にいかなる影響を生むと考えますか?中国経済の反発はどのように世界経済を上向かせるでしょうか

中国のGDPは世界全体の約20%を占めている。もし中国のGDP成長率が2ポイント減速すれば(2020年上半期にこの状況が生じる可能性が高い)、2020年の第1四半期、第2四半期に、世界のGDP成長率は0.5ポイント下がるだろう。既に成長が危ぶまれているグローバル経済にとって、これは問題となるだろう。

ヨーロッパの工業生産額は昨年末から減少し始めている。同時に、消費税が再び上げられたことにより、日本経済の2019年の最後の数カ月における縮小幅も予測を大幅に上回った。つまり、中国経済に波乱が生じる前から、グローバル経済は完全には足元が固まっていなかったということだ。これらのすべてのことは、新型肺炎、ならびにサプライチェーンと製品貿易の結びつきを通じて近隣国に与える間接的な影響が、金融市場における2020年上半期のグローバル経済の減退への憂慮を高めるだろう。

中国経済の長期的見通しをどのように見ていますか?この度の突発的な公衆衛生事件で中国が「中所得国の罠」に陥ると考えますか

「二つの百年」という壮大な目標を実現するために、中国は数多くの試練に直面している。整った公衆衛生システムは必要なものだが、まだ充分ではない。このことは中国の社会保障ネットワークの限定性を顕著に示しており、長きに渡って中国の家庭はいずれも不安からくる予防的な貯蓄を進め、そのために個人消費の力強い伸びは抑制されてきた。

「中所得国の罠」は疾病の防止コントロールや公衆衛生との関連性が薄く、イノベーションの導入から自主的イノベーションへのモデルチェンジとの関連性がより大きい。もちろん、この点は中米貿易摩擦における主な論争分野となっており、中国の数多くの中核技術基幹産業にもダメージを与えた。

アメリカとの貿易摩擦は明らかに中国が自主的イノベーションの文化を打ち立てることへの重要な注意喚起だ。過去数年、中国はこの目標を実現する上で、とりわけ電子商取引、フィンテック、生命科学、そしてもちろん人工知能(AI)などの要となる応用分野で、人々を鼓舞する数多くの非凡な進展を成し遂げた。新型肺炎の発生は人々に厳しい警告を発した。それは、技術力そのものは目的ではないということだ。もし中国がチャンスを掴み、自主的なイノベーションによって形作られた新たな実力をより質の高い経済成長に転化させ、最先端の公衆衛生システムを打ち立てれば、人々が長い間懸念しているいわゆる「中所得国の罠」によってもたらされる挫折をよりしっかりと回避できる。

「北京週報日本語版」2020224

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