「ヒーハオ」に揺れる感情
 

  「ヒーハオ!ヒーハオ!」カメルーンで街を歩いていると、よく言われる言葉のことだ。彼らは私のことを中国人だと思って挨拶をしてきているのだ。このような時、「ボンジュール!私は日本人だ」と即座に返すことが多い。どうもこの「ヒーハオ」には嘲笑の意が込められているように感じる、どことなくバカにしているように声をかけてくるから、私も少々反発心を込めて、日本人であると主張するのである。それは、中国人と言われたことに対してではなく声をかけてくる彼らの態度に起因するところが大きい。

 大学院に入ってから人類学的な研究調査のため、カメルーンに年に数ヶ月ほど滞在している。調査地は東部州の熱帯雨林地域のため、首都のヤウンデ滞在はそこまで長くない。しかし、ヤウンデにいると中国を感じない日はないと言ってもよいほど中国は身近な存在であり、日本にいる時以上に中国を感じると言っても良い。ヤウンデには日本食のレストランはないが、中華料理のお店は数多くある。普段はカメルーン料理を食べることが多いが、少し良い食事をしようとか、関係者との会食の時には、行きつけの中華料理レストランに行き食事を楽しんでいる。首都の大型の外資系のスーパーに行けば、必ずと言ってよいほど中華食材は売っている。調査地である田舎の村で食べるため、首都でインスタントラーメンを34個買っていくのがお決まりになっている。さすがに田舎では手に入らないため、どの味にするか非常に迷いながら、森での生活の貴重な嗜好品として持っていくのである。

 中国企業のアフリカ市場への進出は年々顕著になっている。アフリカに進出している企業は、日本では400社だが、中国では1万にもなるという。背景には、中国政府による巨額の開発援助がある。カメルーンも例外ではない。ギニア湾に面するクリビ港の開発が中国の支援で進められており、それに伴い道路の建設などインフラ整備に資金が投入されている。首都ヤウンデでもスタジアムや国際会議場の建設などに中国資本が入っており、中国から来たと思われる作業員の人たちを見ることも珍しくない。巨額の資金と労働力を投入し、アフリカでの開発を進める中国のやり方には批判的な意見も多い。重要なことは人々の暮らす環境や自然を守りながら、そして現地の人々と協力し合いながら、双方が対等に互いにとって最良の選択をしていくことであると思う。「ヒーハオ」、それはカメルーンの人にとっても中国が身近な存在であることを意味している。「ヒーハオ」にはそこで暮らす人々の様々な感情が込められているに違いない。私に挨拶をした彼らは何を思っているのだろうか。

 カメルーンで中国を身近に感じ、恩恵に預かりつつも、どこか日本と中国は違うと思っている自分がいた。偏見とまではいかない複雑な感情がそこにはあった。そこにある「中国」は、虚像のようで、顔の見えない国家であり組織としての中国であった。私はアフリカで間接的に中国に触れる機会は多いが、直接的に在カメルーンの中国の人と関わったことがない。中国に旅行に行ったこともあるが、現地の人々はとても親切で、日本にいて感じていた様々な誤解や偏見が解けたことを覚えている。国家や組織のしがらみを超えて人と人とが直接関わる時、私たちは本当の意味で対話をし、関係を築くことができる。機会があるならば、カメルーンで暮らす中国の人と交流をしてみたいと思うし、カメルーンの現在と未来についてどのように考えているのか話をしてみたい。そして、隣人として共にカメルーンの将来を見守っていける存在になりたいと思う。そうすれば、今度「ヒーハオ」と言われた時には、笑顔で「ヒーハオ!」と応えられる時がくるかもしれない。

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