私を変えた彼女
 

私が初めて中国人と出会ったのは、大学一年生の時だ。同じゼミで仲良くさせていただいた上海出身の中国人だ。彼女とは年齢が違い、彼女の方が年上だったがすぐに打ち解けることが出来た。彼女が馬術部に入部し馬に蹴られたこと、課題が終わらないことなど色々な話をした。出会ったときには既に中国の大学を卒業し、アメリカの大学院を卒業後、日本の大学に入学といった華やかな経歴を持っていた。「一体、彼女は何がしたいのだろう。」と率直に思った。

それから彼女に直接聞く機会があった。すると彼女は「身に着けられるものは身に着けたいし泥棒も取れない。なりたいものはそれから考える。」と答えてくれた。その時は、ただ「中国のお金持ち」のイメージしか持たなかった。そして現在、私はある学校で中国語を学んでいる。中国語の先生もまた、上海出身である。上海の短期大学を卒業後、日本の大学を卒業し、大学院を卒業した先生である。彼女の中国での暮らしぶりを聞くと、裕福ではなかった。幼い頃、自転車を親に買ってもらえなかったから乗ることが出来ないと呟いていた。日本では当たり前の日常が、彼女の幼少期にはなかった。ここで、あの疑問が浮かんできた。「一体、彼女は何がしたかったのだろうか。なぜ裕福ではないのに、日本の大学に入学するのだろうか。」と。

私は率直に聞いてみた。すると彼女からは「親は子供の出世を願っている。海外に行くのは心配だし、費用もかかるけど今さえ我慢すれば後の世代は必ず裕福になる。次の世代、その次の世代と裕福になっていく。」と答えてくれた。この時、私の体に衝撃が走った。なぜなら、日本人の口からひと言たりとも、『次の世代』という言葉を聞いたことがなかったからだ。我々日本人からすると、次の世代そしてまたその次の世代ともなれば私たちは生きている保証はない。その為、次世代を考えたりしないのが通常だと思っていた。しかし中国では次の世代、そしてその次の世代のことも考えている。自分が生きていようとなかろうと。そして、孫も含め、家族が繁栄していくことを望んでいる。その為、中国では親戚に借金してまで教育費用にかけることもあり、祖父母や叔父叔母から教育費用の援助がある。この点にも衝撃だった。日本では、教育費用は年々高騰するが、教育費用に借金までしてかける親がいるだろうか。おそらく、大学で奨学金を借りるぐらいだろう。大学でこそ私学が多いが、小学校から高等学校まで公立学校卒業の場合が多い。その為、教育費用はそれほど掛からないし、小学校で塾に通っている人も少数派である。日本では教育費用にほとんどお金をかけずに良い大学に行くことが美学と考えたりする親も存在する。もちろん、叔父叔母からの教育費用の援助は論外である。

彼女と出会ってから、私の中国人へのイメージが変わった。以前は正直、中国人は自分のことしか考えていないと思っていた。しかし、自分のことしか考えていないのは私の方だった。私にもいつか子供が生まれたら、次の世代さらに次の世代を考えていけるようになろう、そしてそのように子供を育てていこうと決意した。次の世代、その次の世代の繁栄を願って。彼女と出会い、一つの疑問が解決した際、ふとある思いがよぎった。大学時代に出会った彼女は、今、いったいどこで何をしているのであろうか。きっと、本国に帰り、自分の知識を生かしていて欲しい、そんな彼女になっていることを想像して、もう一度会ってみたいと思うようになった。

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