色眼鏡のその先に
 

  私は中国という国をまだ訪れたこともなければ、生粋の中国人が友達にいるわけでもない。だがそれでもここに文章を残そうと考えたきっかけは1つのテレビ番組だった。

そのテレビ番組とは、「池上彰の現代史を歩く」である。私がその日見た回では、中国をぶらり旅していた。正直に言うと、これを見始めたときはまだ中国に対して興味がなく、チャンネルを変えようかと迷いながら見ていた。そんな時、池上彰さんが中国の書店訪問をしていた。次の瞬間私はテレビの画面にくぎ付けになった。なんと書店の人気ランキングに並べられた本の半分以上が日本の著者なのである。特に一番人気は東野圭吾。本好きの私にとってこのことは中国のイメージを180度転換させた。それまでは過去の歴史からなんとなくマイナスなイメージを持ってしまっていた。しかし、中国人は日本人と似たような感性をもって本を楽しんでいるのである。そこには確実に心の面で通じているものがある。

 翌日私は図書館で日本の本に対する中国人の心情を調べてみた。すると、日本の小説は人間の心理を深く観察していて悲しい結末で終わる作品も多く、中国人たちは自分に置き換えて考えさせられることから手に取る人が多いということが分かった。

 私はこの事実から、中国人と日本人に通じるものとは共感力だと考える。現代の日本の若者が共感を求めていることはインスタグラムの流行から理解できる。イイネを押してもらうことでたくさんの人からの共感を得たいと思っているのだ。一方で中国人は、自分たちの境遇を本の登場人物の境遇と重ね合わせて共感したいと思っている。また、中国人の爆買いが近年では落ち着き、景色を楽しむために日本を訪れる中国人が増えているそうだ。おそらく理由は昔の日本人が見た景色と同じ景色を見て、同じ気持ちを味わってみたいと思うからなのだろう。受動と能動の差こそあれ、日本人も中国人も共感を求めているのだ。

 現代のマスメディアの影響から、最初の私と同じく中国に対してマイナスなイメージを持っている日本人も少なくはないだろう。こうした色眼鏡は誰もがすでに掛けてしまっているもので、それを掛けていることにすら気が付いていない人が多いというのが実情なのだろう。私はその色眼鏡は外せないものと考えている。なぜなら自分の色眼鏡を外すということは、自分の育った土地、経験の全てを否定して記憶をリセットするのと同じことだからだ。しかし、最低限自分の色眼鏡に気を使い、他人の色眼鏡を認めていこうと努めることぐらいはできるだろう。今回私は中国人と日本人が共感を求めているという共通点を知ることができた。それぞれ異なる世界に住み、異なる色眼鏡を掛けているのだとしても、差異を認めたうえで、それでも共通しているものも多いと気づくことができれば、ただ一緒にいるだけでいい、ありがたい、と思うことができるのではないだろうか。

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