「日中マナー摩擦」

上江洲すみれ

「中国人」と聞いて多くの人がまず思い浮かぶ言葉と言えば、残念ながら「マナーの悪さ」だろう。私が住む東京ではどこにいっても中国人を見かけるが、彼らに白い目を向ける日本人も少なくはない。とある化粧品販売店が「中国人お断り」の張り紙をし、営業停止になった事件も記憶に新しい。「マナーを守らない中国人」VS「マナーにうるさい日本人」の対立は日に日に悪化し、そこら中で「マナー摩擦」が起きている。

中国人はマナーを守らない人が多いのは残念ながら事実だ。だが、「日本のマナーに従っていない=マナーが悪い」と一概に断定して良いのだろうか?

私が中国人のマナーについて深く考えるようになったのは、有名な大手ディスカウントストアでアルバイトを始めたからだ。試供品ではないのに商品を開けてしまう、列に並ばず割り込む、周りを考えない声量でのおしゃべり…最初は中国人の様々な行動に辟易していた。自由奔放な中国人と、彼らにいらいらする日本人、この問題はなかなか解決が難く、仕方がないのだと諦めていた。

この考えが変わったのは中国での留学を経験し、日本と中国のマナーに対する価値観の違いを学んだからだ。中国にも他人に迷惑をかけないための守るべきルールは当然存在する。ただ、そのルールの範囲が日本とは違うだけなのだ。つまり、中国は細かいことや他人の目を気にしない文化であるため、日本より許される範囲が広いのだ。日本ではうるさく感じた声の大きさも、大陸では普通レベルだ。むしろ声が小さいと聞き取ってもらえない。夏の中国でよく見かける「腹出しおじさん」は日本では変人扱いされるだろう。電車において「降りる人が先、乗る人が後」という考えも存在しないため、大勢が同時に乗り込むのが当たり前だ。     

日本人にとっては呆れてしまうような光景ばかりかもしれない。しかし中国では小さなことに一々目くじらを立てない「おおらかさ」があるからこそ、それほど「悪いこと」だとみなされることはない。度を越えていなければ「没问题,没关系(問題ない、大丈夫)」と許し合うことこそが、中国のマナー観ではないかと個人的に思う。このような文化的背景の違いを知ると、中国のマナーを「レベルが低い」と一方的に判断してしまうことに、少しばかり疑問を感じるようになった。

確かに日本人のマナーへの意識は高いかもしれない。だが、その分マナー逸脱者・違反者に対する目は厳しい。他人に不愉快な思いをさせないように常に気を配り、自分を律することができるのは日本人の美徳かもしれない。しかしこの美徳を気にするあまり、少しばかり窮屈に感じ、気疲れするときもある。「中国は人が多いからね、名前も知らない他人なんて気にしてないよ。もっとリラックスして過ごしていいんだよ」と中国人に言われたことがある。それまで海外に出ることのなかった私は、生まれて初めて解放感を味わい、リラックスした生活を送ることができた。行動・発言・見た目、必要以上に気にしない中国での生活は、思いがけず本当に心地よかった。

最近アルバイト中に、会計前に飲み物をあけている中国人のおばさんを注意したことがある。「あとでお金払うから別にいいかと思ってたけどダメなのね。次からはしないわ。」彼らはマナーが悪いのではない、ただ日本のマナーを知る機会がなかっただけだと今ならわかる。彼らのほとんどは、何がどうだめなのか理由を説明すれば理解してくれる。当たり前だが、郷に入っては郷に従え、日本に来たからには日本のマナーを守るのが道理だ。だが言葉が通じない環境で、彼らが全てを理解するには限界があるだろう。中国人のマナーが悪いと心の中で悪態をつく前に、優しく肩をたたき、やってはいけないことを教えてあげる。私もようやくできるようになったばかりだが、この小さな日中摩擦をなくすために続けていきたいと思う。

人民中国インターネット版

 

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