深圳で出会った2人の中国人

山田未登

 大学生の時に中国に留学し、帰国・日本で就職して5年が過ぎようとしている。留学時の思い出は多々あるが、特に思い出に残っているのは深圳で出会った2人の中国人女性である。

 当時甘粛省蘭州市に留学していた私は仲の良かった韓国人留学生が香港で結婚式を挙げるとのことで、式に参列することにした。予め帰りは挙式の翌々日の早朝の飛行機で深圳から帰る便を予約した。この時、深圳出発前日の内に深圳入りした方が良いとは考えていたが、深圳で一泊するための宿泊先を予約しなかった。根拠はなかったが、何とかなるだろう、と思っていた。

初めての香港・海外での結婚式参列だったので全てが新鮮、飽きることなく楽しめた。とはいえ挙式が終わりに近づくにつれ帰りの旅程が心配になってきた。式に参列していた人にこのことを話すと、知り合いに深圳に住んでいる人がいるからそこに泊まれば良い、と言われ近くにあった紙ナプキンに名前と電話番号を書いて渡してきた。今まで知らない人の家に泊まったことのなかった私にとっては不安ではあったが、現地で宿泊先を探すよりはまし、と思いこの連絡先に頼る事にした。

 深圳に着き、連絡先にSMSを送ると、最寄りの地下鉄駅に着いたら連絡して、との返事を貰った。連絡がついたことに一安心し、駅までたどり着くと2人の女性が待っていた。年齢は自分と変わらないところか。軽く挨拶を済ませたところで彼女たちの住んでいるマンションへ案内された。

 彼女達は中国東北部出身で数ヶ月前に大学を卒業し、深圳で職探しをしているところだった。2人はロシア留学中に出会ったとのことで、外国語を学ぶ苦労は知っていたのか、拙い中国語を話していた私を褒めてくれた。

 私が来たからといって特別なことではない、といった感じで2人は「いつも通り」夕食を作ってくれ、一緒に食べた。夕食後には「散歩したい?」と一緒に夜の街を歩いた。散歩中、彼女達は日本の大学、特に就職状況について熱心に聞いてきた。「機会があったら、日本にも行ってみたい」の言葉が印象的だった。夜は3人川の字になって寝た。普通の中国の若者の生活を体験できた気がした。

 翌朝、早朝の便で蘭州に戻るため、起こしたら悪いと思い夜中にこっそり起きて支度をしようと思ったが、私が起きた事に気付いたのか2人とも起きてくれ、部屋の電気もつけ、空港までのタクシーも手配・乗車するまで見送ってくれた。

空港のチェックインを済ませ一息ついた時、彼女たちに満足にお礼も言えていなかったことに気が付いた。確かに、別れる時には「谢谢」くらいは言っていたと思う。しかし、そういうことではなく、他にもっと何か私の方からもしてあげることはなかったのか、と・・・。見ず知らずの外国人である私を快く泊め、色々な事を話してくれた彼女達。蘭州に到着したとき、無事に帰れた安堵と少しのモヤモヤが残った。ほどなくして私は帰国し、日本での生活を再開した。今でも時折、2人のことを思い出す。連絡は途絶えてしまったが、良い就職先を見つけた事を願っている。

今度は私が中国人を助ける番。仕事とは別に、今住んでいる札幌市に来る中国人観光客の案内をボランティアで行っている。活動の原動力はもちろん、あの時深圳で出会った2人の中国人女性である。

人民中国インターネット版

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