「ハナミズキが繋ぐもの」

堂薗遥佳

舞台に立つ私はこれまでになく、緊張していた。マイクを持つ手が汗ばむ。前奏が流れ始めた。手にはしわくちゃになった歌詞カード。あとは練習してきたことを発揮するのみ。曲の出だし「空を押し上げて」は私が歌う。そう、一青窈の代表曲「ハナミズキ」だ。

リンくんと出会ったのは去年の後期、9月頃だ。確か、留学生のチューターをしている友人からの紹介だったと思う。リンくんは社会福祉を学ぶ中国人留学生である。身長は180㎝を超えるかなりの大柄で、日本語も英語もペラペラ。トリリンガルの男子学生である。

仲良くなってしばらく経ち、リンくんから「このイベントに一緒に参加しませんか。」と一枚のプリントを手渡された。舞台は大学で行われるクリカラパーティー。つまり、クリスマスカラオケパーティーだった。出場条件は2つある。一つは日本の歌であること。そしてもう一つは、留学生と日本人学生の2人以上のチームになって出場すること。カラオケパーティーと言っても、別名カラオケ大会であり、審査もある。そして豪華景品も用意されている。本気で勝ちにいくしかない、そう思った。

私は歌うことが好きだ。第二外国語で中国語を専攻している。大学2年次には北京に留学をし、中国の歌も覚えた。出場を決意するのにあたり、私がとにかく譲れなかった条件は「中国語で歌を披露し、目立ちたい!!」という願望だった。

本番は1220日。出場を決めたのは11月の終わりで、クリカラパーティーに向けて約3週間の特訓が始まった。平日の授業終わりに二人でカラオケに行き、練習をした。週に2回から3回はカラオケに通ったと思う。まず初めに気付いたことは、「私はリンくんの歌声を知らない。」ということだった。もちろん普段の話し声は聞いている。しかし、歌となると話は別で、いくら声が良いからと言っても音痴な人は沢山いる。しかし、リンくんの歌い出しの第一声に驚き、私の不安は一気に吹き飛んだ。文句なしで上手かった。

クリカラパーティーに向け、まずは選曲。リンくんが知っている日本の歌でなければいけない。リンくんが提示したのはMISIAの「逢いたくていま」と一青窈の「ハナミズキ」だった。「中国語で歌を披露したい」という私のわがままを叶えるため、中国語バージョンの歌詞がある「ハナミズキ」=「四照花(中国語題)」に決まった。中国語で初めて「ハナミズキ」を歌った時は散々だった。ピンインが違うとか、発音が悪いとかリンくんに説教を受けた。そこで私は、手作りの歌詞カードを作成した。10センチ四方のプリントに歌詞とピンインを書いた。練習の時は毎回持参し、リンくんからのアドバイスを書き込みながら歌った。

カラオケ大会には計5組がエントリーしていた。当日は大学図書内の小さなホールで行われた。学生や教授などお客さんは40名程度。学生の中にはもちろん、中国大陸部や台湾地区からの留学生もいる。中国語を母国語とする学生の前では話すのでさえ緊張するのに、ましてこれから歌を歌う。歌詞カードを握りしめて舞台に立つ。セットは予想以上に本格的で、スポットライトが当たり、舞台上のスクリーンにはMVも流れる。曲の長さは3分程だが、今まで幾度も重ねてきた3分よりも随分長く感じられた。隣に立つリンくんの方を向くと、緊張している私とは対照的に、頷くようにリズムを刻み、体まで揺らし曲の世界に入っていた。

肝心の結果はというと、惜しくも優勝を逃した。練習量は他のどのチームにも負けていないと自信を持って言える。

ハナミズキの花言葉は「私の思いを受け取ってください」。リンくんと私の歌声や気持ちは観客に届いただろうか。

我衷心地祈祷 美夢成真的那一天 願你和心上人百年好合

結果発表後にリンくんが「来年もまた一緒に出場しよう。」と言ってくれた。ハナミズキには「永続性」という花言葉もあることを知った。

人民中国インターネット版

 

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