30年の時を超えて

 田中陽帆

 4年前、祖母が当時小学6年生の私といとこ、そして母を伴って、深圳にいる中国人の友人呉さんを訪れた。呉さんと奥さんは祖母のことを「お母さん、お母さん」と呼び、とても暖かく私たちをもてなしてくれた。呉さんは、自分の職場や建築中の家を私たちに案内してみせ、祖母は呉さんがとても立派になって、呉さん夫婦がとても幸せに暮らしていることを心底喜んでいた。

 呉さん夫婦と祖母の出会いは、今から30年前の話になる。

 私の祖母がまだ40歳位、私の母が20歳位だったころ、祖母は近くの大学の寮住まいの留学生に月に1度程度ホームビジットを提供するホストファミリーになるプログラムに申し込んだ。祖母が当初希望したのは、大学生だった母の英語の勉強によいだろうと、英語を母国語とする国の留学生だった。ところが、しばらくして大学側から紹介されたのは中国からの留学生。なんでも、英語を話す留学生は人気で大学から距離の近い家のホストファミリーに決まることが多く、当時まだ発展途上であった中国からの留学生は、ホストファミリーとのマッチングが成立しにくく、家が大学から遠くまだ留学生が決まってなかった祖母に、一度あってみるだけでもあってほしいと、紹介が入ったのだ。これも何かのご縁と祖父母は、紹介された中国人留学生さんとあってみることにした。

 それが全ての始まり。祖父母は結局その時紹介された国費留学生の呉さんのホストファミリーとなり、その奥さんが中国にいるというので、祖父母は保証人にもなり奥さんを日本によんできて、呉さんと同じ大学の呂さん、田さん、石さん、等々、気が付けばたくさんの中国人留学生が家に遊びにくるようになっていた。みんなそれぞれホストファミリーが別にいたのだが、お正月もホームビジットに呼んでもらわず一人で寮にいるというので、だったら呉さんと一緒に遊びにおいでと、小さい家に大勢の留学生を呼んでいったのだ。日本の生活で困ったことがあったら話を聞いたりもしていたそうだ。祖母曰く、大変だったけどとても楽しかったと。

 もうあれから30年。みんな、日本の大学院を卒業後、中国に帰って会社を経営したり、国のお役人さんになったりしてとても偉くなっている。だけど、今でも出張で日本にくると、「元気にしていますか?」と年をとった祖母に電話をしてきてくれる。去年も今年もお正月に家族で祖母を訪ねてきてくれた人もいた。先日の豪雨の際にも、心配して連絡があったそうだ。この夏日本は特に暑いからと先週も祖母に連絡があった。

  祖母は「もうこんなおばあさんだから、気にしなくていいよっていつも言っているんだけどね。それでも連絡してきてくれるんだねえ...」と、嬉しそうに話してくれる。

今や中国は世界で最も影響力のある国の一つ、世界を動かす国になっている。私達が海外へ行くと、ヨーロッパでも、アジアでも、ロシアでも、みんな「ニーハオ」と呼び掛けてくる。ロシアでは、露店でさえも「人民元」でお買い物ができるほどだった。そんな中国をつくりあげ、いま立派に国を支えている人たちは、昔日本で知り合ったただの一般人にすぎないホストマザーを、30年たった今でも「お母さん、お母さん」と慕いつづけ、心配してくれるとても義理人情に厚い人たちだ。彼らの祖母へのそんな暖かい気持ちは、孫の私にとっても嬉しく、彼らと祖母がお互いに築き上げてきた関係はとてもすばらしいものだと思う。年月とともに色あせるのではなくより深く確かになっていくような絆。私もお隣の国の人たちとそんな風につきあっていきたいと思う。メディアで見聞きするだけではお互いが近くて遠くなる。祖母とかつての中国人留学生達が築いた絆のバトンを私もリレーして受け継いでゆきたい。人と人としてお互いを理解しようとし思いやることができる友情を、一人でも多くの中国の隣人と築いていきたいと願っている。

人民中国インターネット版

 

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