二胡を弾く天使

種田涼音

 中学三年生の頃。吹奏楽部に所属していた私は、トロンボーンのレッスンを受ける為に山奥の合宿所に来ていました。休憩時間に気分転換のために外へ出てみると、遠くのほうから何やら不思議な音楽が聞こえてきました。その音楽の正体が気になって、音が聞こえる方へ足を進めていくと、そこには、見たことがない謎の弦楽器を演奏する男性と、その隣に寄り添うように座る女性の姿がありました。男性のほうはよく見ると中国の民族衣装を身に纏っています。夢か幻か、はたまた映画の撮影か何かか。謎の弦楽器が奏でる清らかでどこか切ない調べと、寄り添う二人の男女が織り成す美しい光景が、現実のものであるとはにわかに信じ難く、私は時間を忘れて、ただその光景を眺めていました。

「結局あの楽器は何だったのかな。」家に帰ってからもそのことで頭がいっぱいでした。演奏していた男性の恰好からして、おそらく中国の楽器ではないかと思い、インターネットで中国の楽器について調べてみると、私が見た楽器と同じ楽器を演奏している動画がありました。そして、その楽器の正体は「二胡」という中国の楽器であるということがわかりました。普段はオーケストラや吹奏楽など、西洋発祥の音楽にばかり触れていた私にとって、中国の楽器とは初めての出会いでした。そこから一気に中国の音楽の虜となり、それがきっかけで、今まで全く気に留めたこともなかった中国の文化や歴史、中国語に興味を持ち始めました。

 もっと中国のことについて知りたいと思いつつもなかなか機会に恵まれず、そのまま高校へ進学した私に、大きなチャンスが訪れました。中国語の授業です。高校二年生の選択授業の中にありました。40人入ることができる教室の中に先生1人、生徒4人。非常に少ない人数でしたが、中国語だけでなく、文化、歴史、暮らしについてなど、様々なことを学ぶことができました。

ある日の授業のこと。先生が漢詩の「春暁」を中国語で紹介されたことがありました。春暁は、中学校の教科書にも載っているほど有名な漢詩です。私も中学生の頃に国語の授業で習いました。その時に、「漢詩は中国語で読むと本当の面白さがわかりますよ。」と国語の先生がおっしゃっていたのですが、私はその意味がいまいちよくわかっていませんでした。「日本語で読んでも、中国語で読んでも、意味は同じなのに何が面白いのだろう。」そう思っていました。ですが、先生が中国語で春暁を読まれてはじめて気づいたのです。実はラップのように母音で韻を踏んでいたという事実に!確かにこれは日本語で読んでいては気づくことができなかったでしょう。大げさかもしれませんが、私はそれに気づいた瞬間、自分の中の世界が大きく広がったような気がしました。「中国語って、なんて不思議で面白いのだろう!」どんどん中国語の魅力に引き込まれていくのを実感した瞬間でした。

これまで中国に全く興味関心が無かった私が、ここまで中国について深く知ろうと思いはじめたのも、全てはあの時、二胡を演奏していた男性と女性のおかげだと思います。あの光景が現実だったのか幻だったのか、今でもよくわかりませんが、もしかするとあの二人は二胡を操り、私を中国の魅力へ引き込む天使だったのかもしれません。まだまだ中国について知りたいことが沢山あります。いつの日か、またあの天使の音楽を耳にすることを夢に見ながら、これからも中国についてもっともっと深く知っていきたいです。

人民中国インターネット版

 

 

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