夢の原点

   添田天駿

   「友達から、おまえは日本人だよ…と言われたよ、お母さん、どうして?」

これは、私が母と兄と中国の武漢に住んで、幼稚園に通っていた時の出来事。

困惑している私の顔を見て、母は、こう言った、「あなたは、生まれた国が日本だから…」

中国人の母は、自分の祖国の文化を覚えてもらうために、幼い私と兄を中国へ連れ、普通の中国人と同じように、中国の幼稚園を通わせ、周りの子供達と馴染ませるために、私に日本人であることを一度も口にしなかった。

小学校の終り頃日本に戻った私は、一見ほかの日本人の子供たちと同じく、学校生活を始まり、仲間を作り、勉強や部活に励んでいた。しかし、自分の中では、周囲の仲間との違いを少し感じた。何故なら、心の底には、いつももう一つの祖国―中国の面影があったからだ。

日本で家族と静かにお正月を過ごす時、何故か、いつも中国の旧正月に仲間たちと一斉に花火や爆竹で賑わうことを思い出す。真冬の中、胸は熱くなる…あの頃、周りの仲間と同じく、極当たり前のことのように思っていたのに、いまになって、何故か、あの頃より、中国の節分、伝統と深い人情を切に思うようになり、恋しくなってきた。

20113月、日本で死傷者数万人となる東日本大震災があった。私は、様々な募金活動にふれる時、何故か、いつも中国の四川大地震のことを思い出す。あの頃、私は七歳、ちょっと中国の小学校を通っていたので、震災後、学校の募金活動にすぐ参加し、クラスメイト達と一緒に、真っ赤な「四川大地震救災」の旗を挙げて、武漢市の中心部にある、最も賑わう商店街で、募金箱を持って走り回った。

「良い子、良い子、よく頑張っているね」

買い物で賑わう大勢の人から、ひとりのおばあちゃんがやってきて、小さな両手で抱っこしている私の募金箱に、数枚の百元札を入れながら、微笑んで私の頭を撫でてくれた。そのおばあちゃんは、私は日本人であることを当然知らなかった。私は、惜しまずにお金を差出したおばあちゃんに感謝すべきなのに、返って励ましの褒め言葉を頂いたことに、胸がいっぱいとなり、十数億人の間、愛情を一人から一人へ伝わっていくこの雄大な中国大陸に、感動を覚えた。

母の思う以上に、母の祖国の中国は、私の歩みの原点となった。

しかし、私に影響を与えたのは母だけではない。私の成長に連れ、日本グローバル事業展開のため、世界中に飛び回って多忙の父親との交わりも自然に増えてきた。電機メーカーに務める父は、中学生になった私と兄を良く科学技術館や展示会などへ連れて行き、日本の先端技術に触れる機会を与えてくれた。そこで、私は、製造や介護などのロボットに魅了され、ロボット開発の夢を持つようになった。

夢を語る私に、「いまの時代はグローバル時代だ、最先端の技術を学ぼうとしたら、アメリカへ行って来い!」と、父の一言に、私は昨年、日本高校の交換留学生の一人として、アメリカを訪れ、そこで一年を過ごした。

そして、交換留学先のアメリカでロボット大会に優勝した時、こんな質問がされた。

「将来の夢は、何ですか?」

「最先端のロボットをつくって、中国、日本、世界中の救済活動に使いたい」と答えるたびに、中国の原点に回帰したような気がする。あの募金箱を抱いた小さな男の子の頭を撫でてくれたおばあちゃんの微笑みは、目の前に浮かんできて、胸が熱くなる。中国大陸に覚えたその感動を、私が創ったロボットを通して、日本、そして世界へ伝えていきたい。

「あなたは、なに人ですか?」

「アジア人です」―私のいつもの答えだった。

この遠くの国から、生れた日本と、幼い心に深い人情を注いでくれた中国は、一つの故郷に見えたのだ。

 

人民中国インターネット版

 

 

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