中国語がつなげてくれた一期一会

玉川直美

 「中国語がつなげてくれた一期一会」そう思った瞬間だった。あれは、高校2年生の10月、学校からの帰りで国分寺駅の改札を出て中央線に乗り換えようとした時だった。仕事帰りの人や学生がせっせと行き交う中、突然一人のおばあさんが不安そうな顔で私を呼び止めた。最初は何を言っているのかよく聞き取れなかったが、おばさんの必死な目を見ながら、よく耳を澄まして聞いてみると、なんとそれは中国語だったのだ。ちょうどその頃、中国語を学んでみようと思って、ラジオの中国語講座を聞き始めて2か月くらい経っていた頃だった。おばあさんは手に握りしめていた紙を私に見せながら、「ここに行きたい」というようなことを言っていた。紙には「武蔵小金井」と書いてあり、自分も知っている駅で案内できると思い、「我知道站。一起·走吧!」·と習いたての中国語で伝えると、おばあさんはちょっと安心した顔つきになった。電車に乗っている時、おばあさんと色々話してみたかったが、質問したところで自分が聞き取れないのは申し訳ないと思い、何も話せなかった。せめてもの思いで「迎来到日本·!」と伝えると、おばあさんはにっこり微笑んでくれた。駅のホームに着いて看板の「武蔵小金井駅」の文字を見ると、おばあさんは今までの張りつめた感じは消え、ほっとした様子だった。人々の雑多な雰囲気も収まり、おばあさんの声がよく聞こえるようになると、ゆっくりした口調でなぜ日本に来たのかを話してくれた。おばあさんは福建省から来た人で、自分の娘が日本で結婚式をあげということで日本に来たそうだった。おばあさんの話を理解するまでに、何度も聞き直したり、筆談で書いてもらったりしたのでたどたどしいコミュニケーションになってしまったが、おばあさんは気にせず私が理解できるまで話してくれた。「恭喜恭喜·!」と伝えると、おばあさんはまたにっこり微笑んだ。そして、最後、私の手をぎゅっと握り、耳元で何かを言っていた。歌が好きというようなことを言っていたのかもしれない。その後、透き通る声で中国語の歌を少しだけ披露してくれたのだ。結局お互いの名前も知らず、一瞬の出会いだったが、中国語を始めた私にとって忘れられない出来事となった。

この一期一会の出会いから学んだことがある。それは、「相手に何かを伝えたい、相手の言いたいことを理解したい」という「思い」があればコミュニケーションは取れるということだ。今までは、流暢に話したり、一度聞いただけで聞き取れるようにならなければコミュニケーションを取ることはできないと思っていたが、必ずしもそうではないのだと気づいた。おばあさんを案内した時も、なかなか聞き取れないこともあったが、おばあさんもしっかりと伝わるまで何度も言いなおしてくれたおかげでお互いコミュニケーションが取れたのだ。「思い」はまるでコミュニケーションの「入り口」を開ける「鍵」のようなもので、それがなければ何も始まらないものなのだと思った。それでも、もし自分の言いたいことがさっと言えたり、何でも聞き取れる中国語能力を持っていたら、おばあさんともっと話ができたのにと思うと少し悔しかった。「高い言語能力」は一方で、コミュニケーションの「入り口」に入った後の道を案内してくれる「案内人」のようなものだと思った。「案内人」がいれば、道を恐れずに進むことができるし、スムーズに移動できる。また、コミュニケーションの「入口」に入ること自体にも躊躇しなくなる。このおばあさんとの出会いのあと、「もっと中国語を話せるようになりたい」と思い、学び続けて今に至る。まだまだ流暢には話せないが、「思い」からコミュニケーションは始まるということが心にあるので楽しく学ぶことができている。言葉は人の「思い」と「思い」をつなげてくれる橋―そう確信した出来事だった。

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