再会の日のために

飯伏風花


 

暂时的分了彼此更好的重逢

北京留学終了時、ある中国人の友人がくれた手紙で、最も印象的だった一節だ。「ひと時の別 れは、もっと素晴らしい再会のためである」という意味のこの文は、北京を離れる寂しさでいっぱい だった私の心に、少なからず希望の光を灯してくれた。

私は北京が大好きだ。帰国後は、ただひたすら北京に行きたいと、その一心で就職活動やアルバイトに励んだ。この強い思いは、辛いとき私に「もう少しだけ頑張ろう」と思わせてくれた。そして帰国から五か月経った十二月、旅行資金を貯めた私はようやく北京を再訪した。

街中の喧騒、電車内での大声の通話、けたたましいクラクション、シェアサイクル開錠の音――道端に痰を吐く音ですら、私にとってはこの上なく心地良いBGMとして耳に響いた。留学の思い出を一つ一つなぞるように当時訪れた屋台や小さな土産屋に立ち寄ってみると、多くの店員が私を覚えてくれていたことに驚いた。「你回来了(帰ってきたんだ)」と私に微笑む彼らに、初めて自 身の北京への盲目的な愛の理由がわかった気がした。屋台や道端でなされる良い意味で距離感を覚えさせない言葉掛けと、それが生み出す雰囲気こそが、日本では感じ得ない「暖かさ」の根源であり、私にとって北京が居心地の良い場所となった理由だったのだ。以前と変わらないその暖かさに、胸がじんわり熱くなるのを感じた。

そして旅行の最終日には友人と再会し、近状を語り合った。ある友人は日本語講師のアルバイトに忙しく、またある友人はアメリカ留学のために必死に英語の勉強をしていた。企業のインターン生として既に働いている友人もいた。多くの困難を物ともせず挑戦を続けている彼らの姿は、とても輝いて見えた。最後に、私たちは互いに加油,加油と声を掛け合い、次の再会までそれぞれの場所で頑張ることを約束した。またすぐに来よう、そう思い私は北京を離れたのだった。

それから一か月後、新型肺炎が湖北省で発覚、瞬く間に中国全土へ、そして世界へ広まった。連日テレビでは感染者数や死亡者数、空っぽになった商店街の映像、企業の新卒採用打ち切りのニュースなどが報道されていた。北京旅行はおろか自宅すら出ることができない状況に、私も陰鬱な気分で日々を過ごし、自分のするべきことにも手がつかずにいた。

そんな折、街中で『武漢加油』『中国加油』というフレーズをよく見るようになった。「頑張れ」を意味する加油は、中国語学習者でなければ馴染みのない単語であったように思う。それが、新型肺炎をきっかけに生活に溢れるようになった。本来、医療に従事する方々やインフラの維持のために働く方々、闘病中の方々に向けられた言葉なのかもしれないが、なぜか、それは私の脳内では北京で出会った人たちの声で再生された。日本語の「頑張れ」には何も感じなかったのに、不思議なことに加油という言葉は私を励ましてくれているように聞こえたのだ。突然、このまま無気力に日々を過ごしていてはいけないという意識が芽生え、活力がみなぎる感じがした。彼らはきっと今も、何かに挑戦し努力しているはずなのだから、私も頑張らなければ。そう思い、まずは就職活動にもう一度精力的に取り組み始めた。新しい分野の勉強を始めてみたり、SNSで中国について発信してみたりもした。小さなことだが、彼らの存在と加油の二文字が、自分の中に変化をもたらしたことは確実だった。

ふと冒頭の一節を思い出し、彼が記した「もっと素敵な再会」の意味を考えてみる。そして私が彼らに会えないこと、北京に行けないことは、決して憂うべきことではなく、来たる再会の日までの準備期間なのだ、と悟った。今は現状を嘆くのではなく、自分にできることを精一杯やろう。私の加油站である北京、変わらないけれど確実に変わり続けている北京に、もっと成長した姿で再会するために。

 

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