待っていてね、中国

 鬼塚宏志

 

私には、中国の大学教授の友達が三人いる。

教授たちと出会ったのは2019年の春だった。私は当時、海外大学生の日本でのインターンシップや就労をサポートする企業で働いていた。日本でインターン中の学生の様子を見学したいと、中国のある大学から依頼があり、その同行を私が担当することになった。学生がインターンを行っているのは沖縄のホテルと北海道の観光施設の2か所。沖縄から北海道まで、教授三人をお連れして移動する全5日間のスケジュールだ。

同行を命じられた時の私の気持ちは、「ああ面倒くさいな〜。初対面の中国人と五日間もずっと一緒か。しかも大学教授!しかも三人も!!息が詰まりそう。」という、大変後ろ向きなものだった。

憂鬱な気持ちで那覇国際空港の到着ゲートに立つ私の前に現れたのは、私と同年代の、若々しい恰好をした三人組。日本語学科の教授なので驚くほど流暢な日本語で気さくに私に挨拶をしてくれた。「本当に大学教授ですか?」とつい疑いたくなるような、まるで学生のような風貌と物腰の三人の登場に、身構えていた私は拍子抜けしてしまった。

移動中や食事をご一緒する間、教授たちとたくさんお話した。教授が日本に興味を持つきっかけとなった日本の小説や映画、アニメの話から、大学や中国全土での日本語教育の現状など、どれも興味深いお話ばかりだった。博識な教授たちの前で、沖縄と北海道出身の偉人を尋ねられても、BEGINとドリカムくらいしか頭に浮かばない自分が情けなくなってしまった。

三日目に沖縄から北海道へ移動した頃には、教授たちとの距離もかなり縮まっていた。雄大な景色の中を移動する車内で、後部座席の教授が中国語の歌を口ずさんでおり、馴染みのないメロディーと中国語の響きが耳に心地よく、車内はリラックスした心地よい空気に包まれていた。出発前の私の憂鬱は杞憂となって北海道の青い空に飛んでいくようだった。

五日間の行程を終えた私たちは、惜しみながらも別れの挨拶をし、再開を約束した。「友達だから敬語はやめましょう」という教授のお言葉に甘えて、すぐに「え?いいの?」と態度を豹変させる失礼な私に対して、その後も優しい気遣いの連絡を頻繁にくださり、半年後に私は旅行で中国を訪れ、約束通り教授たちとの再会を果たしたのだった。

私は同年の秋に日本語教育の道に進むため、会社を退職した。もちろんそれは教授たちに大きな影響を受けた上での決断だった。

日本でインターンシップ中の学生と教授たちが話す姿は、親子のようでもあり、友人のようでもあり、それでいて学生から教授への尊敬が感じられるもので、日本の大学での教授と学生の関係ではなかなか見られないものだった。

私が教授たちに「日本語を教える仕事は大変でしょう」と聞いたとき、教授たちは声を揃えて「楽しいです」と即答した。どんな仕事も大変なもので仕事を純粋に楽しめる人なんていないと思っていた私にとって、それは衝撃的な回答だった。

独学で日本語教育の勉強を始め、201912月に日本語教育能力検定試験に合格した。すぐに教授たちに報告をすると、「是非中国で一緒に仕事がしたい」と言ってくださり、2020年の秋から中国へ渡り教授たちの大学で日本語教師としての第一歩を踏み出すことが決まった。しかし、ビザの準備を進めていていたところ、新型コロナウイルスの感染拡大により、在日本大使館・領事館の業務が停止してしまい、今はその再開を待っている状況だ。

早く教授たち、そしてまだ見ぬ学生たちに会いたい気持ちでいっぱいで、渡航が伸びてしまうのはとても歯がゆい思いではあるが、今はとにかく一日も早い新型コロナウイルスの終息を願いつつ、私自身も基本的な中国語や日本語教育について引き続き勉強している。学びは積み重ねであるため、急に教授たちのように博識にはなれないが、せめて沖縄と北海道出身の作家や政治家の名前くらいは言えるように準備をしておきたい。

 

 

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