たった1分の動画が私に与えた影響

森優衣


「中国人に対して、どのようなイメージを持っているか。」と聞かれたら、過去の私はこう言うだろう。「マナーが悪く、あまり良いイメージはない。」と。しかし、もし私が同じ質問を今されるなら、私ははっきりと声に出してこう言うだろう。「中国の方は優しく、良いイメージである。」と。

私の中国人に対するイメージを大きく変えた出来事は、ある日突然訪れた。私は、毎日SNSを見るのが習慣となっており、その日もいつものようにTikTokというアプリで様々な動画を見て楽しんでいた。TikTokとは、15秒から1分ほどの短い動画を誰もが簡単に投稿することができる短尺動画プッラトフォームのことであり、世界中の人々が動画を投稿し、それを誰でも見ることができる。そのため、様々なジャンルの動画を世界中で見ることができ、今若者の間で人気のSNSだ。

その日も私はいつも通り、何本もの短尺動画を見ては、スクロールをして次の動画に変え、そしてまた次の動画に変えというように特に私の感情が大きく動かされることのないまま、ただただ携帯の画面を眺め、動画を見ていた。しかし、ある一本の動画が流れてきてから、私がもう一度スクロールをすることはなかった。私はその時、自分の顔を3cmほど携帯の画面に近づけたように思える。それほど、その動画は私の心を大きく揺さぶった。私はその動画から目が離せなくなり、知らぬ間に何度も何度もその動画を再生していた。たった1分の動画が、私の中国人に対するイメージを大きく変えたのである。

その動画のコンセプトは、知らない人が困っているところを見たら、中国人の人々はどのような行動をとるのかという検証動画で、今までに様々な種類の検証動画が出されている。私がその日見た検証動画は、「中国人男性がウォーターサーバーを配達するのが遅れたことに対し、ある1人の中国人女性が彼に怒鳴っていた時、それをみた周りの中国人の人々はどうするのか。」というものであった。その動画内では、多くの中国人が怒鳴られている男性を助けようと自ら声をかけにいき、多くの人々が声を荒げることなく「互いに理解し合いましょう。」「文句があるなら私に言ってください。」と見知らぬ男性を助けようと行動する優しい姿が映し出されていた。私がその動画内で特に心をつかまれたのは、私と同年代の若い女性が、自分より年上の怒鳴っている女性に対し立ち向かい、男性を救おうとしたところであった。彼女は、ウォーターサーバーを買ってもらわないとクビになってしまうと嘆く男性に対し、会社に電話すると怒鳴る女性のところへ1人で向かい、「ウォーターサーバーを買わせてください。みんな簡単じゃないんです。」と女性に向かって優しく言い、どうにかしてその男性を助けようとしていた。私は、この彼女の行動を無意識にも自分と照らし合わせ、「自分がもしあの立場にいたら、彼女のような行動ができるのだろうか。」と自分自身に問いかけていた。

私は、男性を助けたいという気持ちはあっても、彼女のように1人であの場所に声をかけに行くことはできないだろうと思った。その理由は、私を含む日本人の多くは、周りの人からの見られ方を気にしてしまう傾向にあり、人前での発言や見知らぬ人に対しての発言をためらう人が多いからだ。そう思った時、私の中国人に対する感情は、「マイナス」から「尊敬」へと変化していた。

近年、SNSの普及により様々な情報が簡単に受け取れるようになったことで、1つの噂や動画が多くの誤解や偏見を生むことがある。実際、私が過去に持っていた中国人へのイメージはSNSによって生まれた偏見が大きく関係していたように思える。しかし、SNSの使い方によっては今回の私のように人の考え方を大きく変えるきっかけになる。私が生きるこれからの社会は、今以上にSNSが主流となるだろう。それが誤解や偏見を生むものではなく、人々の価値観や考え方が広がるものであってほしい。

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