浙江工商大学での6日間

山本峰丸

 

「うまくいくだろうか」。関空の国際線出発口を通過したとき、頭に不安がよぎった。行き先は浙江省杭州市。中国人大学生と協力して、日本文化紹介イベントを開催するプロジェクト。万が一準備が間に合わなかったり、人が集まらなかったら、どうしよう。淡い不安を覚えつつ、私は飛行機に乗り込んだ。

事の始まりは一昨年12月だった。大学の掲示板で日中大学生交流事業のチラシを見つけて、友人と一緒に応募した。その結果、大阪大学チーム6人で春休みに浙江工商大学に行くことになった。現地の学生12人と協力して、日本文化紹介イベントを実施する。訪中は初めて。当初は楽しみで仕方なかった。

まず、中国人学生と微信で連絡を取り合うことになった。が、思いがけず意思疎通に苦戦した。イベントの計画を説明して、それに対する提案や意見を求めたものの、反応が鈍い。返信が遅いうえ、やり取りが全く弾まず。準備を着実に進めようとしていた私は困惑した。2月、会場の配置と備品の確認をする段階になっても、進展が悪い。なんと大学にいないため、確認作業ができないというのだ。活動意欲が薄いのか、別の事情があるのか。加えて、通販で発注してもらった資材が届かないトラブルにも直面した。

このような出来事が続いたため、渡航直前になっても不安と重圧に苛まれていたのだった。だが、現地に着くと気持ちが変わった。日本語学科の学生たちが空港まで出迎え。「山本さん、ようこそ杭州へ!」と書かれた特大のボードを見つけて、思わず興奮してしまった。さらに歓迎夕食会。私の拙い中国語に耳を傾けつつ、笑顔で話しかけてくれたので、一気に緊張がほぐれた。翌日からは会場の設営に取り掛かった。資材の追加買い出しやビラ配りから室内の装飾まで。中国人学生たちは献身的に作業を手伝ってくれた。また、毎日ご飯を一緒に食べることで、仲が一段と深まった。チームワークを発揮して、3日間で万全の準備を整えることができた。

ついに本番。「関西万物博覧会」と銘打ったこのイベントでは、多様な日本文化を五感で体験してもらうことを目標に掲げた。たこ焼きと宇治茶を振る舞ったり、日本の音楽、ファッション、武道、ダンス、工芸品作りなどを体験できるブースを設けた。この日も中国人メンバーはフル回転。600人超もの大学生、中高生が来場したなか、各ブースを運営しつつ、通訳も時々務めてくれて大助かりだった。一方、私は来場客たちから、日本の大学生活について様々な質問を受けた。自作の中国語単語カードと翻訳アプリを駆使して何とか回答したものの、中国の学生たちの積極性と知的好奇心の旺盛さにとても驚かされた。

活動を終えた翌日、仲間は空港まで見送りしてくれた。「最初はどんな人が来るか分からず、指示に戸惑うこともあった。でも、山本さんたちと出会えて本当に良かった」。別れ際の思いがけない言葉に、私は感極まって涙を溢してしまった。現地滞在は僅か6日。出会い、話し合い、共同作業をした。ご飯も一緒に食べた。そのことによって、不安が解消したどころか、心が通じ合う仲となれたのだ。実は、渡航前のトラブルの原因も分かった。1月上中旬はちょうど期末試験期間で多忙。2月は春節の休暇で、全員帰省していたらしい。私は中国側のスケジュールを理解せずに、無理を催促してしまっていた。深く反省して、謝った。

現在、新型肺炎流行の影響で、国際交流の機会が数多く失われている。相互に渡航できない状況では、私が学事暦のズレを知らず相手と齟齬が生じたのと同様に、日中の人々や組織の間の連携に支障が生じてくるかもしれない。しかし、自らの常識や考えに固執するのは避けるべきだ。立場や状況の違いを理解しようと努めればこそ、意思疎通が可能になる。2020年、会えない相手への思いやりを通じて、日中友好関係に貢献していきたい。

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