知らない中国人が教えてくれたこと

上松優大

 

胸が熱くなったあの日の出来事。それは私が大学一年生のときの帰り道で起きた。私はある駅のホームで困っている女性を見つけた。その駅は二路線が合流する駅で、非常に慌ただしい。電車の接近放送が鳴り続け、彼女の周りをたくさんの人が横切っていく中、彼女は不安でいっぱいだっただろう。観光客であることはわかったが、どこの国の人かはわからない。「Hello.」とりあえず英語で話しかけてみた。近くで見ると、彼女のスマホには中国語が書いてある。高校で2年間、第二外国語の授業で中国語を学び、そのまま大学で中国語を専攻していた私は少しだけでも中国語を話すと、少しは安心してもらえると思い、「你好」といってみた。彼女の頰の緊張は少しだけ緩んだ気がした。彼女がスマホで見せてきた駅は私の帰り道の途中。「この駅は私も通るから、駅に着いたら教えるよ」なんて難しい中国語は出てこなかったが、とっさに「我也去里。一起去吧。」と言った。彼女は笑顔で答えてくれた。

電車に乗り込んでから目的の駅までは20分ほどかかる。かといって中国語が流暢でない私に会話切り出す勇気はない。そんなとき、彼女は「中国語が上手だね、どこで勉強しているの?」と中国語で私に聞いてくれた。私もそれに必死で答えた。その後も彼女が会話を先導してくれた。私が聞き取れないときには何度も何度もゆっくり繰り返してくれた。子供がわかるような簡単な言葉に直してくれた。私も彼女に何をしにきたのか、どこにいったのかなど質問すると、たくさん旅行の思い出を語ってくれた。必死ながらも会話を楽しんでいると目的地に着いた。彼女は私に谢谢とありったけの笑顔で感謝を述べてくれた。

私は名前も知らない中国人との「出逢い」から学んだことがある。それは、相手が知らない人でも、国籍や人種・民族が異なっても、「目の前の相手とココロで真剣に向き合うこと」の大切さである。私は中国語をうまく話せないし、聞くこともできない。だから正直、話すのが怖かった。彼女から、そして自分自身から逃げていた。でも、彼女は目の前の私に真剣に向き合ってくれた。私の中国語が下手なことをバカにしたり、笑ったりしなかった。ずっと耳を傾け続けてくれた。彼女は流暢に話すことが大切なのではないと教えてくれたのだと思う。相手との重い扉を開けるのは言語能力ではない。その言語を使う人のココロである。ココロを込めて話せば、流暢でなくても十分に伝わる。

その日から私は変わった。一つは「逃げないこと。」相手がどんな背景を持っていても、相手を尊重し真剣に向き合っている。そして、もう一つは「自信を持つこと。」まだ流暢ではないけれど、自信を持って中国語を話せるようになった。たとえ、失敗しても周りの目を恐れなくなった。自分から逃げずに自分に自信を持つことができると見える景色が変わる。身の回りだけでなく、もっと大きな世界が見える。

現在、日本と中国は政治や歴史で課題を抱えている。すごく難しい問題で私も解決策はわからない。しかし、私はコロナウイルスが流行したときに、相手国を思いやり、両国がマスクや医療器具などの支援物資をお互いに送り合ったような日本と中国の姿をこれからもずっと見ていきたい。私がまずできることは、もっとたくさんの観光客を助けること。そんな私の行動を見て、他の人も同じように行動を起こせば、きっといつか社会全体が変わる。社会全体が変われば、日本と中国の相互理解が深まり、無駄な偏見や差別がなくなるだろう。私は日中の架け橋となれるように様々なことに主体的に取り組んでいく。そして、中国語を磨き上げ、もしいつの日か彼女と再会することができた時は、自分が成長することができたということをしっかりとココロを込めて伝えようと思う。

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