第三の文化圏はすぐそこに

笠井 光


螺螄粉を食べながら、中華ドラマを見る。最近の毎朝の日課だ。

日本に住んでいると、普通に生きているだけで、二つの大きな文化に接していると思う。一つは日本文化。言語から生活文化まで、もちろん日本は日本文化で出来ている。もう一つは欧米文化。学校ではみんな英語を勉強し、当然のように欧米の音楽を聴き、映画を見る。欧米ブランドのファストフードには、老若男女が並んでいる。

世界には、多くの国があってそれぞれの文化がある。中でも、多くの人が所属し、歴史が深く、影響力も強い文化の一つが、中国の文化だ。そのことは、みんな知っている。日本には、多くの中国人が住んでいて、中国人のコミュニティが出来上がっている。それもみんな知っている。しかし、こんなに大きな文化が身近にあっても、実際に身近に感じ、肌身に触れている人は少ない。

五年前、東京で大学に通っていた僕は、みんなの中の一人だった。そんな僕が、たまたま知り合った中国人留学生との出会いから、突然、三つ目の文化圏に足を踏み入れることになる。

知り合って間もなく池袋の雑居ビルにある中華料理店に連れて行かれた。店内には中国語のみが飛び交い、「マーラータン」という麺料理が出てきた。衝撃的な美味しさだった。ラーメンの汁は絶対に飲まない派の僕が、スープを飲み干した。それから上野や錦糸町などの中華料理店にも足を運んだ。中華料理店は中国の各地方料理に特化して提供している場合が多く、全て違って全て美味しい。どうやら中国は地方ごとに料理文化もかなり違うようだ。よく探すと、東京ならだいたいどの駅にも、日本に住む中国人向けに中国人が経営する中華料理店が見つかる。螺螄粉、涼皮、肉夹馍椒魚頭、鴨血粉絲湯、熱幹麺。日本訳はわからない。中国語を勉強したことのない僕だったが、カタカナとアクセントのメモを握り、注文を繰り返していたら、料理名だけは四声も完璧に発音できるようになっていた。

ある日、インターネットで偶然、中国人歌手の歌声を聞いた。素晴らしかった。よく考えると、世界で一番人口の多い国で、素晴らしいコンテンツが欧米と同じくらい多く生み出されているはずなのに、あまり触れたことがない。調べると、大量に見つかるが、日本語になっているものが少ない。やっとのことで日本語字幕がある歴史系ドラマを見つけた。日本でも欧米でも見たことのない演出・ストーリーで、食い入るように毎日見た。全て見終えた翌日、僕は中国語の勉強を始めた。毎日勉強を続け、最近少しずつ字幕を読めるようになってきた。

中国語を読めるようになってきたおかげで、僕が住んでいるマンションの中国人グループで構成されるWeChatグループに入れてもらった。マンションの住人でグループを作っていることにも驚いたが、なんと70人以上の人が所属していた。そこでは、子供のいらなくなったおもちゃを譲ったり、誰かがまとめて買った食材を分け合ったりしていた。話では聞いたことのあった「隣人関係を大事にする中国の文化」を初めて体感した。

ずっと日本に住んでいて、日系企業で働く僕だけど、今は3つの文化圏に触れて生きていると実感する。どれが抜きに出て好きというわけでもない。日本の深夜バラエティも、アメリカのリアリティーショーも、中国の古装劇も全部好きだ。一つ言えるのは、昔より自分の世界が広がっている。第三の文化圏はすぐそこにある。周りには多くの中国人が暮らしている。きっかけさえあれば、触れられる。実は、日本という国はそういう環境なのだ。

昨日、いつも行く中華物産店に新しいブランドの螺螄粉が入荷されていた。明日の朝も螺螄粉を食べながら、中華ドラマを見よう。

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