与えられて、与えられた

古賀 裕也

 

僕には大切な人が2人いる。1人は僕に「与えてくれた」寧波の恋人、もう1人は僕が「与えられた」きっかけを作ってくれた上海の親友だ。今回はその2人についてお話ししたい。

僕と中国の最初の出会いは、父の仕事の関係で上海に行った中1だ。正直初印象は悪かった。商売人は僕の服を容赦無く引っ張ってくるし、中国語もよく分からず怖い。僕は一刻も早く日本に帰りたかったし、一生関わることは無い国だとさえ思った。

事実は小説より奇なりとはよく言ったものだ。中1の僕は、まさか大学で中国の女の子に恋するとは夢にも思わなかった。

大学2回生の冬、僕は友達から依頼を受けた。中国人のクラスメイトと共に、日本人にインタビューしたいから僕に出演して欲しいとのことだ。僕は何の気なしに承諾した。当日部屋の扉を開けた瞬間、長髪を優雅になびかせる女の子に僕は目を奪われた。それが恋人との出会いだ。

彼女と付き合い始めたことで、僕の意識は大きく変わった。「もっと彼女の故郷について知りたい、中国の人と話してみたい!」そう思い始めたのだ。しかし彼女や彼女の友達と仲良くなるにつれ、中国の文化や人々に加速度的に魅了されていった。何よりも目をキラキラさせながら自らの夢を語る彼女達は、僕がこれまで一度も出会ったことがない類の人であり、衝撃だった。僕には無いものを彼女達は確かに持っていたんだ。僕はこれまで中国に無関心だった。

彼女達と出会って1カ月目。僕は中国語への挑戦を決意した。しかし彼女達は日本語が話せる。それなのになぜわざわざ中国語を勉強しようと思ったか?「彼女達と直接触れ合い、心から寄り添える関係になりたい」そう思ったからだ。

これまで会話はできるが、彼女達の真意を十分に理解できているとは言い難かった。また僕としても伝えきれないことが多々あった。ならば僕が彼女達に寄り添えば済む話だ。

中国語は予想以上に難しく途中何度も挫折しかけたが、彼女達の支えもありなんとか必死で頑張ることができた。中国語教室にも通い始め、大学の中国研修プログラムにも参加した。その甲斐あってか僕の中国語はみるみる上達し、一年足らずでHSK5級も難なく合格できた。

そんなある日、僕のサークルに上海出身の留学生が入った。しかし彼は日本語が殆ど話せず、サークル内で孤立していた。

「僕の中国語はまさにこの時のためにあるんだ!」そう思った僕は、積極的に話しかけた。みんなが彼を無視しても僕は真っ先に彼と話し、いつの間にか親友になった。そんな僕と彼の様子を見て、徐々に他のメンバーも彼を受け入れるようになった。

ただそれでも他のメンバーと彼との間にはなんとも言えない距離感があった。ある日その原因に気づいた。メディアの影響による中国人への偏見だった。「中国人は日本人とは分かり合えない、別人種だ」こんな偏見を他のメンバーは口には出さないが、心の奥底で持っていたのだ。

「悔しい、なんとかしたい」そう思った僕は、春休みにサークルのメンバー全員で彼の実家に遊びに行く、というプランを企画した。表面的には単なる旅行だ。しかし僕の胸中には、ある一つの思いがあった。

「彼の家族や友達と直に交流することで、彼らの中国への偏見を無くしたい!中国を好きになってもらいたい!」

結果は大成功だった。僕たちは彼の母親や兄、友達から歓迎され、一緒に色んな場所に出かけた。帰国後、僕はメンバーにどことなく中国の印象を聞いてみた。彼らは満面の笑みでこう言った。

「中国ほんまに好きになった!」涙が出るほど嬉しかった。

恋人と出会い、僕の中国への偏見は無くなった。それどころか僕は中国が大好きになった。親友と出会い、今度は僕が仲間に正しい姿を発信し、彼らを変えることができた。

恋人から僕は新しい世界を「与えられて」、親友との出会いを通し今度は僕が仲間に新しい世界を「与えられた」のだ。その時、僕は紛れもなく「懸け橋」だった。

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