私は任梨紗です。

任 梨紗

 

明天!拜拜!今日も携帯のラジオアプリから流れる彼のこの言葉を聞いて、学校の宿題やら受験勉強やらでよく開くようになったパソコンをシャットダウンした。シャワーを浴びて、スキンケアを済ませ、単語帳を手にベッドにもぐりこむ。そうして、単語帳の字がかすんで見えるくらい目が開かなくなってきたら眠る。これが高校三年生の私のルーティーンであるが、その前に私の自己紹介を聞いてほしい。

私は俗にいう在日コリアンである。日本で生まれ、18年間日本で育ってきたが韓国の名前で生きてきた。4歳の時、現在住む町に引っ越してきたが、その際に大量のヘイトメールがポストに投函されていたことは鮮明に覚えているし、小学3年生の時に「何人? なんで変な名前なの?」としつこく尋ねられたことは複雑な気持ちになったことを思い出す。私は、そんな自分の名前を、自分のアイデンティティーをいつも憎んできた。日本で生まれて日本で育っているのに名前が外国のものだから、となぜ線を引かれてしまうのか。

そんな気持ちのまま高校に入学した私に、転機となる出来事が起こった。中国との出会いである。先生が毎度、重要人物のコスプレをして授業をしてくれるために世界史の授業が好きだった私は、その日もいつものようにノートにメモを取っていた。先生は、始皇帝のコスプレをしながら、中国史の余談として現在の中国がいかに多民族国家であるかについて話してくれたアジアには単一民族国家しかないと思っていた私にとって、中国国内において50以上の民族がそれぞれの文化を残したまま暮らしているという事実は衝撃的なものであった。案の定先生の話は頭から離れず、家に帰ってパソコンを開いて、検索をかけた。そうすると、日本の約26倍の面積を誇る広大な国土に56の民族が暮らしていることがわかった。海を渡ればそこには少数民族を含む56もの民族が共存しあう国が存在しているのである。私の中で自分のアイデンティティーに対するネガティブな感情が薄れ始めていった瞬間だった。日本でも他民族が共生するというビジョンが見えたからであろう。

その後、時を経るにつれ私の関心は中国の音楽へと移り変わっていった。もともとK-POPが好きだった私が応援していた推し(特定のアイドルグループ内で1番好きなメンバー)が中国人であったのだ。彼は吉林省出身の朝鮮族であった。ある日、彼の生配信を聞いていると、とある韓国人ファンが彼にこんな質問を投げかけた。「あなたは、中国人なの? 朝鮮人なの?」私は、コメントを打っていた手を止め彼の返事を待った。実際、韓国において在日韓国人があまり良い印象を持たれないのと同じように、在中韓国人なども同じような扱いを受けると聞いたことがあったからである。しかし、彼はいとも簡単にこう答えたのである。「僕は、黄仁俊だよ。」そしてこう続けた。「君は僕になんてほしかったのかわからないけれど、僕は黄仁俊でそれ以上でもそれ以下でもない。確かに漢民族ではないけれど、沢山の民族がお互いに尊重しあう中国出身だよ。」彼の言葉は私の中でぐるぐると渦巻いていた灰色の感情を一気に真っ白なものに変えた。そもそも、何人か、何民族であるかなど関係なかったのである。むしろ、大切な事とは何民族であろうとお互いを尊重しあい理解する精神なのである。そして、これが中華人民共和国という国が長い歴史を経て築き上げてきた教えなのである。このことに気づいてから、私は自分のアイデンティティーに自信を持ち、毎日をポジティブに生きるようになった。

高校3年生になった私は今日も黄先生の中国語の授業を終え、帰路に就く。食事をとり、パソコンを開き勉強に取り掛かる。21時からは私に希望を与えてくれた彼が中国語でラジオを行うため、流しておこう。2155分になった。今日もあの言葉を聞いて明日から頑張っていこう。明天!拜拜!

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