待っていてくれる人

服部 大芽

 

あれは去年の秋くらいだろうか。私は日本から遠く離れた武漢という地で、不思議な安心感を覚えた。周りは全て中国語、外国の地であるのには変わりはない。でも、なぜか居心地が良くて、周りには多くの友人がいて、なんだか自分の故郷にいるような感じがした。

時は戻り、2019213日。私は武漢の天河国際空港にいた。肩書はこれから武漢大学に交換留学する1人の大学生。旅たつ前の留学への胸の高まりはどこに消えたのか。気持ちは、かなり不安だった。なぜなら留学の状況はこうだ。「言葉:通じない」、「友人:一人もいない」、「場所:行ったことない地」。まるで島流しのようにも見える。だが、1年間の留学生活を経た時の私は上記の3つの状態がこう変化する。「言葉:人と人とを繋げる」、「友人:心優しい中国の友」、「場所:第2の故郷」。どう心境が変化したのか、それには離れた土地で日本人を待っていてくれた武漢の中国人との出会いがあった。そんな、中国に魅せられた1人の大学生の物語。

20192月末頃。武漢大学の国際学生寮で私は頭を悩ましていた。中国生活も半カ月が過ぎ、だいぶ慣れてきた。「炒飯(チャーハン)」や武漢名物の「熱幹麺」、ご飯はとても美味しい。生活に苦労はなかったが、1つ問題があった。それは、中国人と出会いがなく、中国人の友人が一向にできないのだ。寮は皆外国人。中国語を学ぶ私たちはクラスメイトも皆外国人だ。気づいたら知らない国の「こんにちは」や「ありがとう」をたくさん言えるようになっている程である。

そんな時、日本人の友人から誘いを受け、中国人の通う日本語教室に行くことになった。友人は日本の大学生事情を発表し、中国語をあまり話せない私は特技のけん玉を披露した。その時の彼らの反応の大きさは衝撃だった。けん玉の剣に玉が刺さった時、彼らはワーッと声を大にして、大いに盛り上がってくれた。中国人は恥じらいとかを見せず、自分の思いを素直に表現してくれると思った。何だか心が温かくなった。それは10分くらいのことだったが初めて中国人と心がつながる瞬間を感じた。そして、その瞬間がこれから出会う中国人との交流のきっかけになる。

中国人との最初の出会いを得た私は、その後日本語教室や日本語学部の授業に引っ張りだこになって呼んで頂き、合計10回の日本文化を紹介する講演会と、中国人学生と日本人学生の交流会を4回開く機会を得た。更には、日本人の開くカレー屋さんで開かれるリーダーとなり、毎週月曜日と木曜日に学生だけでない日本に興味のある中国人社会人もまぜた交流会に参加していった。そこで出会った中国人は800人を超える。

その時私は確信した。武漢は日本人の留学生が30人程の少ない都市だ。でも、そこには日本に興味を持ってくれている人がたくさんいる。交流会では初めて日本人と会ったと喜んでくれる人や、実家に招待してくれた人もいた。日本にいては気づかないが、中国の武漢という遠く離れた地で、私たち日本人を待ってくれている人がこんなにもいるのだ。私は彼らと出会うことがこの留学の使命かと感じた。そして、その出会いは私にいつまでも心に残る温かい思い出を作り、居場所を作ってくれた。

2020118日、私は武漢から日本に帰国した。幸いにも予定変更なく無事に日本に帰国できたが、その5日後コロナのために武漢が封鎖された。武漢の友が心配だった。そして武漢に対する世間の目も心配だった。武漢は1人の日本人を温かく迎えてくれる優しい地だ。だが、私に出来ることは武漢帰国を心配された時、大丈夫と言うとともに、武漢は良い場所だったということだけだった。ただ、早くこの状況が落ち着き、武漢を始め中国と日本がお互いに笑顔溢れる交流が再開することを希望する。私もまた武漢に行く。今こそ手を結んで全世界協力するときだ。一起加油吧!

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