まさきおっちゃんの中国だより

 

片岡 奈々


3年ほど前のお正月、親戚の集まりで私は自分の耳を疑うような叔父の発言を耳にした。

「おっちゃん、この春から中国で働くことになったんや。」

一瞬固まった私の口から「え、中国地方の方じゃなくて?広島とか岡山の」と出たが、叔父は「CHINAの方や。」と私の動揺をよそに淡々と答えた。

突然そんなことを言い出した叔父に親戚みんなとても戸惑ったのを覚えている。

私は外国に行ったことがなく、外国に関する知識もないため、今まで叔父が海外に出張すると聞くたび心配になっていたのだ。

それが今度はいつ日本に帰れるのか分からない単身赴任。

当時、私は「中国って日本と近いけど、治安悪いって噂とか環境もよくないって聞くから…。」と思っていた。

不安は残るばかりだったが、その年の春は容赦なく、そして例年通りやってきた。

旅立つ叔父に何かお守りのようなものを…と考えはしたが、もう会えないというわけでもないし大げさなような、そして大の大人にプレゼントできるお財布事情でない不安。それを、改まって何かをする小っ恥ずかしさが後押しして結局何も渡せなかった。

叔父が中国へ渡り、数日後から始まったのが親戚7人のチャットグループでの写真付きの近況報告メッセージだった。

そこに映っていたのは、これから住むことになる天津のマンション、高層ビルが立ち並ぶ中国の街並みや、ちょっと小洒落た中華料理、それから見たこともない食材や料理が並ぶ屋台、壮大な絶景が広がる万里の長城などなど。それらは、真っ白だった「中国」とカテゴライズされた私の脳内のキャンパスに、次々と色をもたらしたのだった。

ほどなくして、その叔父の近況報告メッセージのチェックは私の日課になった。

その日食べた中華料理、出張先の成都や瀋陽などの風景、太極拳をする街の人々や、何気ない街の風景。

日によって送ってくる写真は様々だったがそのどれもがとても新鮮で心躍らせた。

家族みんな、地図帳に印をつけたり、都市について調べたりと叔父のメッセージに興味津々だった。

叔父のメッセージはとても丁寧だ。写真に映っている地域の地図上での位置、その地域と日本の関係、その土地の特徴など、沢山の情報を添えて送ってくれる。

おかげで私は日本にいながら、ネットで見るのとは少し違った叔父からの視点で見た中国や、中国での生活に触れることができる。

もっと中国について知るために最新の中国のニュースをチェックするようになった。

叔父のメッセージにある都市が、私の高校の世界史の授業で出てきた地方だった時などは、さも行ったことがあるかのような物言いで「私、広州知ってるよ。清朝の乾隆帝がさ…」と偉そうに家族に自慢したりもした。

そんな私も大学に入り、第二外国語は中国語を選択した。

「私、大学の第二外国語、中国語にしたよ!授業で中国語沢山勉強して、中国に遊びに行くね!」

そう叔父に伝えると、

電話越しに「そうかあ~楽しみやなあ~」と嬉しそうにしている叔父に私まで嬉しくなった。

今現在中国に行くことは厳しいが、いつか必ず行ってずっと画面越しに見ていた中国をこの目で見て、この肌で感じたいと思う。

その時は私の「中国」のキャンパスがもっと鮮明に、賑やかになることだろう。

まだ私が5歳だった頃、家族で動物園に行った。

そこで初めてパンダを目にした私は、釘付けになり、先を行く母と離れ迷子になった。

泣きじゃくる私に手を差し伸べ、家族みんなの元まで導いてくれたのは叔父だった。

「迷子になったとき、誰が見つけてくれたんや?」と意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる叔父に、「………まさきおっちゃん。」と私は言わされ、家族はそれを見て笑っていた。そんな思い出に耽りながら、今夜も叔父がその動物園で買ってくれたぬいぐるみを抱いて眠りにつく。

まさきおっちゃんはいつも私を色んな場所に導いてくれる自慢の叔父だ。

次はどんな中国だよりが送られてくるのだろう。

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