「近い」国・中国

中村柚子香

私にとって中国とは「近い」国である。ここで私が言いたいのは距離的な近さではなく心理的な近さである。現在日本に住んでいながらも中国に親近感を覚え「近い」と感じられているのには私のバックグラウンドが大きく関係している。

 私は中2から高1にかけての約2年半、父の仕事の都合で中国・上海に住んでいた。上海に飛び立つ数か月前に父が上海に異動になったことを伝えられた際、正直私はどうしてアメリカやヨーロッパではなく中国なのかと思った。というのも当時日中関係が冷え込んでいたこともあり日本のメディアは中国の内情や文化を嘲笑するような報道を繰り替えしていた。中国に住んだ経験がある今の私ならフェイクニュースだとすぐに判断できる報道でも、中国を知らない当時の私はフェイクニュースを鵜呑みにしていたのだ。このようにあまり良い印象を持たずに向かった中国だったが、現地に住み始めるにしたがってその印象はだんだんと良いものへと変わっていった。例えば中国人は誰にでも分け隔てなく接することができとてもフレンドリーである。私の中で特に印象的だった出来事は“阿姨さん”と呼ばれるお手伝いさんたちが「調子はどうか」、「上海には慣れたか」等といつも優しく私に声をかけてくれたことである。当時の私は中国語が一切話せず中国語を使った意思疎通は殆どできなかったがそれでも何となく意味は伝わったし、何といっても彼女たちの絶えやまない笑顔や外国人の私ともコミュニケーションを取ろうと奮闘してくれている姿を見て素直に嬉しく思った。一般的に日本では家族や友達といった親しい間柄以外の人に声をかけることは殆どなく良くも悪くも「他人」への警戒心が強い。そのため当初は中国人の「他人」にも声をかけるフレンドリーさに驚いたがそれが彼らの長所だと気が付いた頃にはこうした日本と中国の文化の違いを受け入れられるようになった。私はこの2年半という決して長くない時間を多くの現地の方と関わりながら過ごしたことで、日本のメディアでは報道されない中国や中国人の素晴らしさを沢山知ることができた。加えて中国語を学習し始めたことで彼らとのコミュニケーションが簡単に取れるようになり更に中国の良さを知れるという好循環が生まれるようにもなった。中国は私が想像していた以上に住みやすい国でありあまりにもそこでの生活が充実していたため日本に帰国したくなかった程である。

 その後高2から再び日本に住むようになった私は中国からの観光客がいるのを見かける度に親近感を覚えた。また中国人観光客に道を聞かれた際に「我·住在上海了」というと彼らも私に親近感を持ってくれ話がとても弾んだこともあった。その他にも中国語の学習を続けたり中国の友人と連絡を取り合ったりと中国と関わりながら生活するうちに、中国と関わりを持っているということがいつの間にか自分のアイデンティティになっていることに気が付くようになった。今では私のことを「中国に住んでいた人」と認識している人も多く、心理的な「近さ」は中国に住んでいた頃よりも寧ろ日本に住んでいる今の方が強く感じている。確かに日中関係は波があり現在両国の関係が良いとは言い切れないかもしれない。政治や社会情勢に左右されやすいことも事実だ。それでも私は中国や中国人が好きだし、これからも私のできる範囲で中国に良い印象を持っていない日本人にも日本に偏見を持っている中国人にも互いの良さを伝えていきたい。それが両国の良さを熟知している私にできることなのだろう。いつの日にか日中関係が改善し使節団を送り合い互いの文化を享受していた頃のように両国の文化を尊重し合える社会が実現することを心から願っている。

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