道案内

吉武公佑

中国に行ったことも何か関係があるわけではない私だが一つだけ心に残っていて、忘れられない思い出がある。それは私がちょうど大学受験を見据えて塾に通いだした高校二年生の夏の出来事である。その時私は塾から自転車で家に帰ろうとしていた。そこで中国人の男女二人組に話しかけられたのだ。その二人組は公園を探していた。きっとそこで写真でも撮りたかったのだろう。しかし見つからずに私に声をかけてきたのである。私はとても驚いた。そして最初は少し怖かった。あまり出歩かない性格のため、今まで日本人にだって道を案内することはなかったからだ。しかし詳しい地元のことであるため教えてあげようと思い意気込んだ。幸い女性の方が日本語が堪能であったため、困ることは何もなく公園につくことができた。

言ってしまえばただそれだけの話なのだが私はこの出来事を一生忘れることはないと思う。理由はそれまで持っていた、「言語と文化の違う外国の人と本当の意味で分かりあい、仲良くするのは難しいのだな」、という偏見が解消されたからである。もともと英語は得意ではなかった。またコミュニケーション自体もあまり得意でなかったのでそのような偏見が生まれたのかもしれない。もう二年近くの月日が流れたが、私はその時のことをはっきりと覚えている。「中国から来た」と言っていたこと、「日本が好きだ」と言っていたこと、「日本語上手ですね。」と言ったら笑ってくれたこと、私が一度道を間違えたこと、学校で何を勉強しているのか聞かれて「英語などです」と答えたこと、公園についたらとても嬉しそうにしていたこと、最後に飴をくれたこと。たった20分程度の短い時間の規模の小さな国際交流であったが、とても楽しかった。そして本当に外国の人と仲良くするのを難しくしているのは言語の違いでも、文化の違いでもなく私が持っていたような偏見なのだなと気づいた。そして国籍が違っても同じ人間であるので本質は何も変わらないというのが私の今の意見である。今、日本と中国の間にはいろいろな複雑な問題がある。これは日中間に限ったことではないが、このような問題を解決する一つのカギは交流を進め市民の間だけでも絆を深めることであると思う。私のような偏見を持つ人は少なくないと思う。人は知らないものを恐れるからだ。だから知ること、学ぶことは大切である。そしてその時出会った女性のように母国語と違う言語を自在に操るのはとてもかっこいよくて素晴らしいことだと思った。そんなこともあって今私は英語を中心に頑張って大学で勉強している。

今あの二人組はなにをしているだろうか。新型コロナウイルスの流行など、世界はどんどん目まぐるしく変わっているが元気にしているだろうか。忙しい世の中なので、もう私のことなど忘れてしまっているかもしれない。もう二度と会うことはないかもしれない。それでも私に国際交流の場を与えてくれたこと、考え方を変えてくれたことに感謝したい。そしてこのような交流がもっと日本中国両方に広まっていくことを願っている。

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