中国語から「中国」に迫る

近藤栞

「英語から少し離れたい」そんな消極的な理由から、私の中国語学習は始まった。私が通う大学では、卒業に必要な言語の8単位を、英語でとるか中国語でとるか選択できる。多くの人が慣れ親しんだ英語を選択する中で、私は迷っていた。中高合わせて6年も英語を勉強しているのに、なかなか上達しない。こんな調子では、何年やっても変わらないのではないか。焦りと自己嫌悪が、唯一持っていた英語が好きだという気持ちまでもを揺さぶっていた。この気持ちがなくなったら終わりだ、いったん距離を置こう。散々迷った結果、いちど中国語の世界に飛び込んでみることに決めた。

消去法で中国語の履修を決めたが、もともと中国への関心はもっていた。きっかけとなったのは、新型コロナウイルスだ。ロックダウンされた武漢の夜、住民たちが窓から互いを激励している光景が報道されていたことが、とても印象に残っている。人とのつながりを重んじ、つらいときこそ団結しようとする姿勢に、人間的なあたたかさを感じた。同じような状況になっても、日本では決して起こらないような出来事だ。漢字を使う文化圏で、顔もよく似ているのに、日本とは大きく異なる文化も併せ持っている中国に興味がわいた。

思い切って履修した中国語の講義は、そんな私の好奇心を満たしてくれるものだった。特に心に残ったのが、日本人ドキュメンタリー監督の竹内亮が、都市封鎖が解除された武漢で市民に密着した動画や、タオバオという中国最大のネットショッピングサイトに出店する若手クリエイターに密着した動画を見て、中国語で簡単なディスカッションを行ったことだ。笑いあり涙ありの人間味あふれる武漢の人たちの姿に感動したし、好きという気持ちをエネルギーに自分のやりたいことに挑戦している若者たちの姿に刺激を受けた。慣れない中国語を実践形式で使うのは難しかったが、中国語をツールに文化への理解を深めるのはとても身になる学びだった。また、実際に発音していく中で、一文字ごとにアクセントが変化する、という言語的な特徴が、中国語が怒っているように聞こえがちなことに影響しているということも、身をもって感じられた。中国語を通して、中国の新しい側面をいくつも知ることが出来たのだ。

しかし、中国語を始めてから、ふと疑問に思うことがあった。私はなぜ、巨大な隣国のことをこんなにも知らないでいたのだろう。英語のスランプやコロナなどのきっかけがなかったら、私は中国に無関心なままでいた可能性が高い。もしかしたら、中国に対して持っていたマイナスなイメージが、無意識に興味を邪魔していたのかもしれない。日本には、いまだに中国に対する根深い偏見がある。私もまだ、どこまでが偏見で、どこからが本当の中国なのかわからない。でも、大切なのは、物事の光だけ、闇だけを見るのではなく、バランスよく知ろうとすることだ。私はまだまだ中国に関する知識が少ないけれど、相当な奥深さを持った国であることは感じている。新しい中国を発見していくことで、中国に関する情報を多角的に分析し、中国の本当の姿に迫りたい。中国語を通して、中国まるごとを学んでいきたいのだ。

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