そこに愛があるから

高橋奈津子

#愛は観光ではない 。

これはコロナ下のSNS上で生まれたハッシュタグだ。

日本人と、別の国に暮らす外国人パートナー。いわゆる「国際カップル」は、現在国境を越えて自由に会うことが難しい状況になっている。再会の目途が立たないことから婚約が白紙になってしまったり、すれ違いの日々が続いて喧嘩になってしまったりと、予想外のトラブルに悩まされるカップルも少なくないと聞く。

そして私も(国を隔てているわけではないものの)、現在似たような状況に置かれている。付き合っているパートナーは浙江省出身の中国人だ。

中国にいた頃は高校で教師の仕事をしていたそうだから、彼のことは仮に先生と呼ぼう。

先生は国内の大学院を卒業し、日本で就職先を探している。よって現在日本にいるわけなのだが、国内でもまだまだ予断を許さない状況で、もう何ヶ月も会えていない日々が続いている。

新型コロナウイルスの流行が始まってから、元来心配性の私の悩みは尽きないばかりだ。

この生活はいつまで続くのか。先生は果たして無事に就職できるのか。

もしかしたら私だってこの先仕事が減るかもしれない。

もう一生、大好きな海外旅行に行けなくなってしまったらどうしよう…。

毎日のように電話を繋いではうろたえてばかりの私を、先生はいつも「哈哈哈」とマイペースに笑っている。

「それより中国語の勉強は進んでるの?」

「えっと…今日は饭馆での注文の仕方を勉強した」

「すごい。もう中国に住めるね」

「それは言い過ぎじゃない…?」

彼に出会うまでは、ほとんど中国には無縁の生活を送って来た。

美味しい中華料理もかわいいパンダも大好きだけれど、良い意味でも悪い意味でも中国に対して持っているイメージは「それだけ」。日本に置き換えてみたら、スシとアニメしか知らない外国人みたいなものだ。

そんな中で、私の中国に対するイメージを大きく変えるきっかけとなった先生。

彼は前述したようにマイペースで、自然を愛し、人を思いやる気持ちがあって、何よりとてもポジティブだ。

彼との感覚の違いに気付いたのは、付き合ってすぐの頃。

とある晩に「明日は雨だから憂鬱だ」とメッセージを送ったら、「僕は空気が綺麗になるから嬉しい」と返事がきた。

またとある日に「おろしたての白い服を汚した」と嘆いたら、「いいじゃない。その服は真っ白なキャンバスだよ」と返ってきた。

つくづくどうしてそんな綺麗な考えを持てるのだろうと不思議だったのだが、話を聞いてみると彼の原体験は生まれ育った浙江省の、美しい水辺の風景にあるらしい。

小さい頃は川でよく魚を採った。中学生の頃は自然豊かな山奥で寮生活だった。

近所には鶏がいて、毎朝その鳴き声で目を覚ます。

ふるさとの景色を話す彼は、いつもどこか生き生きとしている。

中国を訪れたことのない私にとっては、正直まだ彼の話す美しい景色を同じように想像することはできないのだけれど。だからこそ、これまで知ろうとすらしなかったゆえの穿った見方が確かに存在していたな、と感じるのだ。

自由に会うことを許されない国際カップルについて、ネット上では「外国人を選んだのは自己責任」「立場をわきまえろ」などと批判的な意見が寄せられることもあるらしい。

そんな中、インタビューに答えた一人の女性の言葉が印象的だった。

「私は好きな人が偶然外国人だっただけ。直接触れ合ったり、話したりすることに勝るものがないのは、(あなたの)家族も恋人も友人も同じではありませんか」――

今、この状況で複雑な思いを抱える国際カップルの方は数多くいることだろう。

皆が一日も早く、笑顔で再会できる日が来ることを願っているけれど…私が祈らなくてもきっと、いつかこの苦難を乗り越えることができると信じている。

そして、私もいつか必ずこの厳しい状況を乗り越えて、美しい心を持つ彼が育った、浙江省の景色を見に行くことができるはずだ。

なぜなら、そこに愛があるのだから。

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