場所は違えど心はひとつ

田林佳純

私は、中国語と出会い現在に至るまで、世界各国の人と知り合い、数知れない友情が芽生え、貴重な体験・経験をしてきました。中でも印象に残っているのは、私が高校一年次に、中国で開催された「漢語橋」中高生中国語スピーチコンテスト世界大会に、日本代表の1人として参加した時の出来事です。それは、参加者の一人でありオーストラリア代表の同じ歳の男子、カイくんとの出会いです。

スピーチコンテスト参加当時の私は、中国語も英語も思うように話すことができず、各国から来た他の参加者と交流することができずにいました。異国の地で自分の無力さを実感し落ち込んでいた時に、彼は、初対面の私にこう声をかけてくれました。「緊張しなくていいよ!怖がらなくていいよ!僕の友達と一緒に話そう!!」私は最初緊張してしまい、なかなか話すことが出来ませんでした。しかし彼の言葉を胸に勇気を出して話しかけてみたところ、すぐに友達になることができました。毎日、一緒に食事をしたり、各国のHappy Birthday to you、英語や中国語の歌を歌ったり、買い物に行ったりして過ごす仲良しグループになりました。彼のかけてくれた言葉のおかげで、スピーチコンテスト中の約2週間は、中国や中国語の魅力に触れられただけでなく、世界各国の人との出会い、異文化交流を通じた友情に溢れ、学びの多い充実した日々になりました。

20172月、彼は来日し、日本代表として大会に参加していた他の日本人の友達と集まり一緒に東京を観光しました。彼はいつも明るく元気で、私たちにたくさんの笑顔や元気を与えてくれました。

「カイくんが癌で亡くなった」

20181月、私のもとに届いた訃報。その知らせを聞いてから私は何日間も泣いて過ごしていました。彼が来日した時、私は、受験勉強をはじめたタイミングで、十分な交流時間をとることができず、1日しか一緒に過ごすことができませんでした。その後も、闘病している彼と最期に話すことも、生きている間に連絡をすることもできませんでした。今振り返っても後悔することしかできません。

訃報から数日後、Facebook 上で、スピーチコンテストに参加していた世界各国の学生たちが彼の死を追悼するために撮影・編集したビデオやメッセージを見ました。私たち日本人参加者も全員で手紙を書き、オーストラリアの彼の家に送りました。

たった2週間、一緒に過ごしただけと言われるかもしれません。しかし、中国語という言語を通じて巡り合えたこと、また彼と一緒にいた時間は、私の人生や考え方ががらりと変わるくらい素晴らしいものでした。

今でも私は彼と一緒に過ごした日々や時間、彼の溢れる優しさや笑顔、彼が私にくれたアドバイスを忘れることはできません。もし過去に戻ることができたならどれほど喜ばしいでしょうか。私は彼のことを一生忘れません。天国にいる彼もきっと私のことを覚えてくれていると信じています。

今、私は、大学で中国語を専攻し、毎日一生懸命勉強に励み、充実した日々を過ごしています。彼の一言が与えてくれた勇気、世界各国の学生との出会いや芽生えた友情。私はその中国語というつながりを途絶えさせることなく、勉強し続けることこそが彼にできる唯一の恩返しであり、彼も見守っていてくれていると信じています。

私の中国語との出会いは「無料」という言葉から始まりました。私の母校には孔子学院で半年間中国語を無料で学べる機会がありました。私は中国語を学ぶことを通じて外の世界に目を向けることができ、人生の目標を見つけることもできました。中国や中国語との出会いをきっかけに、中国語を通じて大切な友人にも出会うことができました。私は心の底から中国や中国語との「出会い」に感謝しています。

勇気をくれたカイくんとは、中国語を学ぶ同志として、いつまでも共に学び続けます。

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