民間外交官

南愛莉

どうやら人間、衝撃を受けると本当に時が止まったように感じてしまうみたいだ。

2019年の夏、私はカナダで中国の友人と山登りをしていた。中国語で話しながら山頂まで行き、絶景を楽しんでいたその時だった。後ろに座っていた同世代の日本人女性二人が私達のバッグを足で蹴り、日本語でこう言った

「邪魔なんだよ中国人、国に帰れよ」

きっと二人は、私たちがどちらも中国人で日本語は分からないと思ったのだろう。そんなことを考えていると中国の友人が私に尋ねた。

,她什么

言えない、言えるわけがない、でも何か言わなきゃ。自分の体感で10秒ほど時が止まった後、やっと言葉が出てきた。

包下面有虫!」

滞在先に戻った後色々考えてみた。「何言ってるんですか?」とか「その発言って差別ですよね?」とか...日本語で言い返せば良かったのだろうか?このようなことが二度と起こらないようにするにはどうすればいいのだろう?でもただの大学生にできることは無いだろうし... そこでもう考えるのを止めてしまった。私には何もできないからもう仕方ないのだ、そう勝手に結論づけた。

それから一年が経った去年の秋、SNSである投稿を見つけた。「日中青年相互の友好と理解促進目指す参加者を募集します」。一年前のあの場面が浮かんだ。URLを押してみると、内閣府の日中青年親善交流事業である「日中代表ユースフォーラム」の案内が出てきた。事業の交流テーマは「ウィズコロナ時代に求められる日中青年の役割」、私が一年前に悩んでいたことの答えが見つかるかもしれないと思いすぐ応募した。だが二次審査の面接であることが起きた。

「事業終了後、この経験をいかしどのように社会に貢献していきたいですか?」

と質問されたのだ。学生に何ができるのか、貢献できるのかについてその時もまだ意見を持てていなかった私の頭は真っ白になった。その時何と答えたのかは覚えていない、きっとパニックになりながら何か言ったのだろう。しかし数日後に選考通過の連絡が来た、事業に参加できることのなったのだ。

私のグループのディスカッションテーマは「科学技術」。中国側の発表では、街中をパトロールする無人のロボットなど、日本では馴染みのないものが紹介された。もし私の街にこのロボットが導入されたら、皆受け入れるのだろうか?そう考えていた時、ある日本人学生が中国の学生にこう質問した。「多くの日本人はこのロボットを見ると、誰かに監視されている気分になってしまうと思う、皆さんはどう考えますか?」まさに私が思っていたことだ。すると中国側から驚くべき答えが返ってきた。「私達は、人間と技術が協力してより暮らしやすい社会をつくることに目を向けています」。そんな考え方があったのか、新しい価値観に触れた。そしてその時気付いた、きっと日本人と中国人の心の距離を広げてしまうのは、このような考え方や文化の違いなのではないか?それなら、中国の人たちが持っている価値観や文化を日本人に広めていけばいのだ、これなら私にもできると思った。

事業終了後の今年3月から、私は東京都日中友好協会でインターンを始めた。協会SNSの管理を任せてもらい、中国の人々が共有している価値観や文化はもちろん、中国トレンドなども日本人に知ってもらうために情報を発信している。この活動を通しても新たに気付いたことがある。日中で親しまれているSNSは異なるため共有できる情報も異なり、それが民間の心の距離を生む原因にもなり得るということだ。だからこそ、両国のSNSを繋ぐ役割を今果たせていることに誇りを持っている。

あの山頂での出来事からずっと考えてきてきたが答えが見つからず、さらに去年の秋にも答えられなかった「どのように社会に貢献していきたいですか?」という質問、今なら自信を持って答えることができる。

「民間外交官として日中両国を繋ぐことで社会に貢献したいです」。

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