即墨レースと魯繍

 

 青島市の中心部から北へ約40㌔行ったところにある即墨区。ここの「即墨レース」はとても有名だ。

 即墨レースは魯繍の一種。魯繍は、史料に記録されている最も古い刺しゅうの一つで、春秋時代からあり、「斉紈魯縞」(古代斉国と魯国で生産された白絹で、後に貴重な絹織物を指すようになった)によってその名が知られている。暗い色の布地を使うことが多く、デザインは比較的シンプルで無骨だ。

 

 「祖父は花荘(刺しゅうの店)を経営していました。子どものころ祖父の家で育った私の周りには即墨レースをあしらったテーブルマットや枕カバーなどがあふれていました。その影響もあって、私は小さい頃からこの伝統手芸が大好きでした」と即墨レースの無形文化遺産伝承者である王軍さん(58)は言う。20世紀、即墨レースは日常生活を彩る存在として地元の人々に人気があり、家計を補うために即墨レースの針仕事をする現地の女性も多かった。

 その後、生産サイクルが長いことや、技能の難易度が高いために工業化が難しく、レース工場は次々に廃業となった。伝統工芸の伝承のため、王軍さんは1991年に会社を設立し、地元の農家の人たちを呼び込んで即墨レースの生産に取り組んだ。近年ではライブ配信やクリエーティブグッズの開発などを通して海外市場を開拓し、工場の一部を「即墨レース博物館」に改造し、もっと多くの人に即墨レースを知ってもらうために、日々努力を続けている。
 王さんによると、一人のお針子が手作りのベッドシーツ1枚を完成させるには、2~3カ月かかり、その価格は最高で3万元にもなるという。落ち着いた色使いで、耐久性と実用性にたけた即墨レースは、海外でも人気が高く、イタリア、英国、ベルギーなどにも輸出されている。