走れ!信頼の彼方へ!

                                        

                      黃凱琪 廈門大学

 

「走れメロス」、初めてこれを読んだのは、高校三年生の時だった。

主人公のメロスは、やがて結婚する妹のために、遠い町に買い物に出た。町は異様な静けさで、みんな、死にそうな顔をしていた。すべてがこの国の王の仕業だと知り、怒ったメロスは王宮に向かい、王を殺そうとした。しかし、たった一人のメロスが軍隊に勝てるはずもなく、殺されることになってしまった。メロスの最後の望みは、妹の結婚式に出席することであった。三日を期限として、結婚式が終わったら、すぐに王宮に戻るとメロスは国王と約束した。そして、その三日間、メロスの友達の石工が、メロスの身代わりとして王宮に留まり、もし、メロスが約束通りに帰ってこなかったら、石工は殺されることになっていた。

妹の結婚式を終え、メロスは急いで王宮へ戻ろうとした。しかし寝坊をしたり、橋が折れていたり、山賊にあったり、とうとうメロスは体力が尽き、倒れてしまった。

「もう、無理だ。わたしは国王の言う通り、約束を守らない男だ。諦めよう。」

今にも意識を失いそうなメロスに、ふと、友達の待っている姿が浮かんできた。

「・・・ダメだ!まだ、私を信じてくれる友達がいる!ここで諦めるのはダメだ!走れメロス!走れ!走れ!」

危うく諦めてしまうところであったメロスだったが、なんとか石工の処刑前に王宮に戻ることができた。誰も信じることの出来なかった国王は、石工とメロスが、最後まで互いを信じあっていたことに感動し、心を入れ替えて、優しい国王になろうと決心した。

さて、この話で、わたしにとって、最も印象深かったところが、二つある。

一つは、最後まで必死に諦めず頑張ったメロスだ。彼はずっと戦っていた。天気との戦い、他人との戦い、そして自分との戦い。メロスが疲れて、もう走れなくなった箇所を読んだ時、私はまるで自分の姿を見たかのように、悔しくて悔しくて仕方がなかった。心の中で「頑張れ!メロス!負けるな!」と叫び、メロスに再び走って欲しい、と願った。高校三年生の私は、自分を超えたい、力を出し尽くしたい、というメロスの気持ちが分かったから、メロスが自分に勝った時、私は、涙が出てきた。そして長いあいだ、メロスは、私を支え続けてくれている。

もう一つは、メロスと石工の間の切れない絆だ。「人を信じる」と、口で言うのは簡単だが、実際に信じることは難しい。特に今の私たちがいるこの社会では、お金のため、名声のため、利益のため、他人を騙したりすることが、知らず知らずのうちに、すでに生きるための手段の一つになってしまっている。だから初めてこの話を読み終えた後、私は感動してしかたがなかった。かりに石工が、メロスの戻って来ることを信じられなかったなら、メロスは妹の結婚式に出席できず、悔しさを抱えたまま死んでいただろう。一方、もしメロスが自分に勝てなかったら、石工も国王に「甘さ」を笑われて、結局、殺されていただろう。しかし、二人の相手への信頼が、国王、そしてこの国を救うことになった。

この話に力を与えられた私は、日本への関心が高まり、大学に入って日本語を専攻することになった。そして一年間、日本語を学び、この話への理解も、より一層深まった。

そう、人を信じること。ただ周りの人との人間関係だけでなく、交流の輪を広げ、中国と日本の間の信頼関係を固めることも、私たち日本語学科の学生の役割だ。

中国と日本の交流は、何千年も遡ることができる。中国が強くて豊かな国だったころ、日本は中国に憧れ、中国のいろいろなことを取り入れた。シルク、薬草、技術、儒学、文字、唐の町を真似して自分の国の町を建てることさえあった。だから、中国と日本が、特に文化面で似ていることは納得できる。しかし、時間が流れるにつれて、中国と日本との関係は次第に、悪くなってしまった。特に1895年から1972年までの長い間、中日関係は悪化する一方だった。

現在、新しい通信手段が生まれ、私たちはインターネットを通じて国境を越え、他国の人々との交流が、ますます便利になっている。そのおかけで日本のアニメやテレビドラマが中国に伝わり、日本人の中国に対する認識も深くなった。これはある程度、中日関係を良い方向に発展させた。

でも、これだけでは足りない。私たちは、時代の交差点に生まれて来た世代である。中国は急速に発展を遂げ、日本も「令和」の時代を迎えた。これからの両国は、互いにとって重要な仲間になると、私は思っている。けれど、進む道には必ず障害が出てくるだろう。相手への疑い、歴史への恨み……メロスのように、困難にあっても諦めず、その疑いや恨みを、できるだけ消して、現在の平和を守り、相手への信頼を固めることこそ、私たちの役割ではないだろうか。

そしてまたいつか、中日関係は必ず真の意味で、信頼の彼方に着けると、私は、信じている。

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